最新記事

映画

『アリー/スター誕生』は「映画って最高」と思わせる傑作

A Dazzling Retelling

2018年12月27日(木)16時00分
デーナ・スティーブンズ

アリーとジャクソンの運命が交錯する (c)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

<ブラッドリー・クーパーとレディー・ガガのペアが往年の名作を別次元に引き上げた『アリー/スター誕生』を見よ>

才能あふれる新進女優がピークを過ぎた大スターに見いだされ、恋に落ち、成功をつかむ。正反対の軌道を描く2人のキャリアと、華やかな芸能界の裏側、セックス、依存症。メロドラマに必要な要素を全て備えた映画『スタア誕生』は、1937年の初製作以来、これまでに2度リメークされている。

それだけに、新たな焼き直しを製作するにはそれなりのリスクがある。それに最近は、特撮を駆使したスーパーヒーロー映画以外は、映画業界全体が低迷気味。ヒューマンドラマをヒットさせるのは至難の業だ。

ところが『アリー/スター誕生』は、驚くほど素晴らしい作品に仕上がっている。近年、実力派俳優としてキャリアを固めてきたブラッドリー・クーパーは、監督初挑戦ながら実に手堅い映画を作り上げた(クーパーは製作・脚本・主演も務めた)。

だが、何よりこの映画を輝かせているのは、新進シンガーソングライターのアリーを演じるレディー・ガガの圧倒的なパフォーマンスだ(本作の主人公は女優ではなくミュージシャンという設定になっている)。

ガガは、1954年の『スタア誕生』でジュディ・ガーランドが演じた、一見頼りなげだが歌いだすと強力なエネルギーを発する女優の卵とも、1976年『スター誕生』でバーブラ・ストライサンドが演じた神経質な新進歌手とも違う、懐が深くて、どこか控えめで、しかし爆発的才能を持つ主人公を見事に演じきっている。

無駄なシーンはほぼゼロ

ガーランド版は筆者がこれまでに見た映画のトップ10に入るお気に入りだ。だからクーパーとガガが『スタア誕生』をリメークすると聞いたときは、意外な組み合わせにワクワクしつつも、ガーランド版を超えるのは無理だろうと完全にタカをくくっていた。

ところがそんな予想は見事に吹き飛ばされた。しかも『アリー』は2時間15分という長尺がコンパクトに感じられるほど、最初から最後まで観客の心をつかんで離さない。胸の張り裂けるようなエンディングに向けて物語が進むなか、無駄なシーンやセリフはゼロに近い。

クーパー演じるジャクソンは、40代のカントリーロック歌手。全盛期は過ぎたが、今も大きなスタジアムを満員にできるくらいの人気はある。ただ、最近は耳鳴りの悪化に悩まされており、ステージに上がる直前まで酒をがぶ飲みするほどアルコール依存にも苦しんでいる。

ある晩、ライブの後に酒を買いに立ち寄ったバーで、ジャクソンは歌手を夢見るアリー(ガガ)がエディット・ピアフの「ラ・ヴィ・アン・ローズ」を歌うのを見る。その晩、ジャクソンとアリーは音楽や人生について語り合い、バーからスーパーマーケット、そして駐車場まで歩き、一緒に曲を書くことになる。ジャクソンはアリーの曲「シャロウ」を聴き、彼女のソングライティングの才能に感銘を受ける。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中