最新記事

日本の宇宙開発

「こうのとり」7号機、小型回収カプセルの回収に成功、その意義とは...

2018年11月15日(木)17時00分
鳥嶋真也

「こうのとり」7号機に搭載されていた小型回収カプセル

6号機までは、「こうのとり」のミッションは大気圏に再突入し、燃え尽きたところで完了だったが、今回は大きく2つの新たなミッションが実施された。

ひとつは、「こうのとり」に搭載されていた「小型回収カプセル(HSRC、HTV Small Re-entry Capsule)」である。

カプセルは直径84cm、高さ66cmの円錐台形で、質量は約180kg。中にISSで生み出された実験成果、試料などを搭載し、地球に持ち帰ることができる。

また、さまざまな制約から、電力を使わず試料を保冷する必要があったことから、魔法瓶のような仕組みの容器を搭載し、その内側に試料を格納できるようになっている。この魔法瓶の開発は、JAXAや宇宙企業ではなく、タイガー魔法瓶が担当した

搭載可能な実験試料の質量は約20kgで、内部の容量は約30リットルある。ただし保冷が必要な試料を持ち帰る場合は、魔法瓶と保冷剤もいっしょに入れる必要があるため、回収できる試料は5リットル程度になるという。

space1115003.jpg

「こうのとり」7号機に搭載された小型回収カプセル (C) JAXA

そしてもうひとつは、日本の近海で再突入し、着水したことである。

従来「こうのとり」は、燃え残った破片などが人家などに落下することを防ぐため、太平洋のど真ん中で再突入、落下していた。しかし、今回はカプセルを回収する必要があることから、日本上空付近で再突入し、南鳥島近海に着水するように飛ぶコースを取った。さらに、内部の試料に衝撃を与えないよう、ふんわり優しく降りてくるような「揚力突入」という飛び方も採用している。

カプセルは「こうのとり」7号機が大気圏に再突入する10分ほど前に分離され、再突入で破壊される「こうのとり」7号機を尻目に、熱に耐え、着水。その後、船によって回収され、搭載していた試料は取り出され、11月13日にJAXA筑波宇宙センター(茨城県つくば市)に到着。またカプセルも後日、同センターに送られる予定で、今後それぞれ分析が行われる。

ISSからのカプセル回収も、日本近海への着水も、そして揚力突入も、日本の宇宙開発史上初の挑戦だったが、無事に成功し、その技術がたしかなものであることが実証された。

space1115004.jpg

宇宙から帰還した「こうのとり」7号機の小型回収カプセル (C) JAXA

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中