最新記事

中国社会

世界が激怒する中国「犬肉祭り」の残酷さ

2018年7月6日(金)18時30分
ピーター・リー(ヒューストン大学ダウンタウン校准教授)

magw180706-dog02.jpg

幼稚園前に並べられたテーブルで何組もの団体客が犬肉料理を堪能する Tyrone Siu-REUTERS

犬たちは仲間が殺されるのを見まいとして、何頭かで一緒にうずくまるか、物陰に隠れようとする。16年にその様子を見に行ったときは午前中の作業が終わったばかりで、生き残った12頭が血だまりの中にいた。犬たちは無表情で、筆者が近づいても目をそらしたまま何の反応もしなかった。犬たちの沈黙は哀れなほえ声以上に衝撃的だった。

犬を殺す労働者にも話を聞いたが、彼らはただ事務的に作業をこなしているだけだった。玉林では犬を痛めつけると肉の味がよくなるという言い伝えがあり、業者はわざと残酷に犬を扱っていると動物保護団体は批判しているが、労働者によればそれは違う。「痛めつけている暇はない。さっさと殺さなきゃ」。彼らにとっては、これも生活のための仕事にすぎないのだ。

祭りになると国内外からどっと押し寄せる活動家に地元の人々は強く反発している。玉林にも愛犬家はいるが、そんな雰囲気では声を上げにくい。ひそかに外部の活動家を支援する人もいるが、住民の多くは玉林と中国をおとしめる敵対的な勢力として活動家を目の敵にする。

犬に毒を与えて盗む悪質な業者が逮捕され、中国当局は毒殺した犬を飲食店や食肉処理工場に流す犯罪組織を摘発した。

毒殺された犬ばかりでなく、病死した犬の肉も食肉に回されている。犬肉食で狂犬病が広がることはないが、健康面に不安のある多数の犬を扱い、殺し、解体する過程で、作業員が犬にかまれるか、切り傷などから狂犬病に感染する可能性はある。中国政府は25年までに狂犬病を撲滅すると宣言しているが、犬肉祭りは目標達成を妨げそうだ。

玉林では犬は路上や学校の前などで殺され、子供がその様子を目にすることも多い。これについては国の未成年者保護法に違反する行為として、業者が有罪判決を受けた事例もある。

政府は「自然消滅」を待つ

世界中で高まる批判を受けて、玉林当局は14年に犬肉祭りは民間の行事であり、市は一切支援していないと釈明。市の職員に祭りの期間中は犬肉を扱う飲食店に行かないよう通達を出した。飲食店は「犬肉」の看板を出さないよう指導され、犬肉業者も取扱量を減らすよう命じられた。

結果、14年以降、業者は派手なお祭り騒ぎを自粛し、公共の場での犬殺しは禁止され、市内の犬肉処理場は郊外に移転した。

しかし市当局は祭りを禁止してはいないし、中国政府も犬肉取引を禁止していない。前述のように雇用面でも市場規模でも、中国の巨大な経済に占める犬肉産業のシェアは微々たるものなのに。

中国政府と地元の当局者は個人的には犬肉食には反対だと機会あるごとに強調している。そうは言っても犬肉産業の就労者は(数は少ないが)、貧しい農村出身者の中でも最も学歴が低く、技術を持たない最底辺の人々だと、当局者も知っている。

犬肉取引を禁止するなら、この人たちにそれに代わる生計手段を与えなければならない。政府としては犬肉産業をつぶすより、自然消滅を待つほうが政治的リスクは少ない。

それでも脱・犬肉食は時代の流れだ。玉林で会った犬肉業者の子供たちは親の職業を継ぎたくないと言っていた。既に香港と台湾では犬肉食は禁止されている。中国本土でも当局が本気になれば禁止できるはずだ。

本誌2018年7月10日号【最新号】掲載

20241210issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年12月10日号(12月3日発売)は「サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦」特集。地域から地球を救う11のチャレンジとJO1のメンバーが語る「環境のためにできること」

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

トランプ氏「おめでとう」、ビットコイン10万ドル台

ワールド

シリア反政府勢力、中部要衝ハマに進入 政権軍は後退

ワールド

韓国大統領・前国防相らを捜査 戒厳令巡り反逆の疑い

ビジネス

英企業の賃金上昇率予想、4.0%に鈍化=中銀調査
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 4
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 7
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 8
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 9
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 10
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中