最新記事

中国社会

世界が激怒する中国「犬肉祭り」の残酷さ

2018年7月6日(金)18時30分
ピーター・リー(ヒューストン大学ダウンタウン校准教授)

祭りの期間中、地元の「犬市」では生きた犬も取引される Kim Kyung Hoon-REUTERS

<南部の玉林で毎年開催される犬肉食イベントは、最底辺層の住民の生活を支えているが、その不衛生さと残酷さは目に余る>

毎年、夏至を迎える時期になると、中国は「犬戦争」に揺れる。人類史上前例がないこの戦争は南部の広西チワン族自治区の玉林市で開催される恒例の「犬肉祭り」をめぐる攻防だ。

毎年6月21日から行われるこの祭りは「伝統行事」と銘打たれているものの、始まったのは2010年と歴史は浅い。それまで一般の中国人は国内の犬肉産業の存在に目をつぶっていたが、玉林の犬祭りが始まると無関心ではいられなくなった。この祭りに真っ先に抗議の声を上げたのは国内の活動家たちだ。

祭りを開催する犬肉業者に言わせれば、この地域はもともと犬肉食が盛んで、夏至の日に犬肉を食べる習慣があったというが、この主張は疑わしい。中国・山東大学の郭鵬(クオ・ポン)教授が玉林で行った調査で、犬肉は地域全体に浸透した日常食ではないことが分かったからだ。

北京の首都愛護動物協会と微善愛護動物協会が昨年行った調査でも、玉林の犬肉消費量は、豚肉、牛肉、鶏肉などの肉類の消費量よりはるかに少なかった。この調査では回答者の大半が、犬肉は「たまたま」食べただけだと答えた。

とはいえ、中国は世界一の犬肉食大国だ。世界で食用に殺される犬は年間2000万~3000万頭。うち1000万頭が中国で処理されている。犬肉の生産量は年間9万7000トンに及ぶが、この数字は中国の食肉生産全体(年間8000万トン)に比べれば微々たるもの。

犬肉産業が中国経済全体に占めるシェアもわずかにすぎない。中国の就業者数は7億7600万人だが、犬肉生産の就業者数(犬集めから輸送、食肉処理までを含む)は100万人足らずだ。

玉林の犬肉祭りの残酷さは、一般の中国人ばかりか、犬肉業界内でも顰蹙を買っている。玉林の業者は祭りの時期になると、膨大な数の犬を確保するため盗みまで働く。彼らは飼い主に気付かれないよう、素早く犬を盗むために、細いワイヤを犬の首に引っ掛けて捕える。ワイヤが首に食い込み、犬が傷つくこともしばしばだ。

地元は抗議活動に反発

長距離輸送のコストを考えれば、1回に500頭以上を運ぶ必要があるが、それだけの犬を集めるには20日程度かかる。その間、既に捕まった犬は不潔な囲いに入れられることになり、囲いが混み合うにつれて感染症がはびこる。さらに輸送にも最低3日かかり、その間犬たちは狭い檻に閉じ込められて、体のあちこちが傷つき、ハエがたかり、ウジが湧く。

積み込み・積み下ろし作業も乱暴だ。檻は地面に投げ落とされ、骨折した犬たちの叫びが辺りに響く。だが人間の残酷さが最もあらわになるのは犬を殺すときだ。犬は1頭ずつ、順番を待つ仲間の前で殺される。筆者はこれまで3回玉林の犬肉祭りを見に行ったが、仲間の処刑を目の当たりにした犬たちの様子には胸がつぶれそうになった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止措置施行、世界初 ユーチ

ワールド

ノーベル平和賞受賞マチャド氏の会見が中止、ベネズエ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中