最新記事

技能実習生 残酷物語

ドイツ版「技能実習生」、ガストアルバイター制度の重い教訓

2018年4月17日(火)14時55分
ニューズウィーク日本版編集部

ノルトライン・ウェストファーレン州の炭鉱で働くトルコ人労働者(1990年頃) HENNING CHRISTOPH-ULLSTEIN BILD/GETTY IMAGES

<日本の技能実習生制度が現代の「奴隷制」を生んでいる。一方、外国人労働者を短期間だけ体よく利用した先例であるドイツが払ったツケとは? 本誌4月24日号「技能実習生 残酷物語」より>

ドイツはアメリカに次ぐ移民受け入れ大国だ。15年の移民数は全人口の約14%に当たる1200 万人に上っている。

そもそもドイツは自国を、移民受け入れに失敗した国と見なしてきた。その元凶は、50年代に西ドイツで始まった「ガストアルバイター」という制度だ。「ガスト」はドイツ語の「客」の意味で、長期滞在しない出稼ぎ労働者をイタリアやトルコなど外国から受け入れるものだった。

ガストアルバイターたちは西ドイツの戦後復興を建設現場や工場で下支えしたが、73年の石油ショックで募集は停止に。その後、彼らの一部は労働契約が切れても帰国せず、母国にいる家族をより豊かなドイツに呼び寄せ始めた。

経済成長が続く間は西ドイツ国民と移民の不信感は目立たなかったが、89年の東西ドイツ統一による財政負担と経済悪化で両者の隔絶が顕在化。かつてのガストアルバイターだったトルコ人が集中して住む地域が孤立化し、ドイツ国民との溝は広がった。

相互不信の原因の1つは、西ドイツ政府がガストアルバイターは「短期労働者だから」と考え、ドイツ語教育などの十分な統合政策を取らなかった点にあるだろう。

労働力不足解消のための05年の移民法改正で、ドイツ政府は遅ればせながら移民にドイツ語研修を義務付けた。しかしトルコ人ばかりが住む地域で暮らす移民たちにとっては、ドイツ語が話せなくても暮らしに不自由はない。このため、今さらお金を払ってまでして真面目に学ぶ必要性を感じていない人たちも多い。

ドイツは教育と職業のつながりが強く、職業資格が重視される資格社会。ドイツ語習得という最初の一歩でつまずいた移民はそのまま社会からドロップアウトしかねない。社会の底辺にいる移民たちは、ドイツ人より低い社会保障とドイツ人より高い貧困率にあえぐ。

かつて自らの経済的利益のために他国の労働者を体よく利用したドイツが近年、人道目的で大量の難民を受け入れたのは罪滅ぼしの意識があるのかもしれない。

【参考記事】細野豪志「技能実習生制度を正当化はしていない」


180424cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版4月17日発売号(2018年4月24日号)は「技能実習生 残酷物語」特集。アジアの若者に日本の技術を伝え、労働力不足も解消する「理想の制度」のはずが、なぜ人権侵害が横行する「奴隷制」になったのか。気鋭のルポライターが使い捨て外国人労働者の理不尽な現実と、新たな変化を描く。この記事は特集より>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中