最新記事

脳科学

かぶってピピピッ、頭が良くなる帽子

2018年1月10日(水)17時30分
ハナ・オズボーン

脳内に電極を埋め込む治療に比べて肉体的にも経済的にも負担が軽減されそうだ Peshkova/iStockphoto

<学問に王道は......あった? 電流の刺激で脳の配線を変えれば、学習能力がグンとアップ(するかも)>

かぶるだけで賢くなる帽子。そんな映画のようなデバイスの開発が、米国防総省の防衛先端技術研究計画局(DARPA)が提供する資金で進んでいる。

開発に参加しているのは、米HRL研究所とソテリックス・メディカル社、マギル大学(カナダ)の研究者たち。17年10月にカレント・バイオロジー誌に掲載された論文によれば、この帽子型の装置をかぶると学習能力が40%もアップする。

外から電流で脳を刺激するだけなので、生体を傷つけない非侵襲的な仕組みだ。実験ではマカク属のサルの前頭前皮質に刺激を与え、2種類の条件を組み合わせる連合学習をさせた。

サルは視覚的な手掛かりと位置の関連性を学習し、報酬に餌を得る。装置をかぶって非侵襲的経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を受けたグループと、刺激を受けないグループで、学習の達成速度を比較した。

その結果、tDCSを受けないグループのサルは報酬を得るまでに平均22回挑戦したのに対し、tDCSを受けたグループは平均12回。学習速度が40%向上した。

「前頭前皮質は、意思決定や認知制御、文脈の記憶検索などさまざまな実行機能を司る。ほかの皮質のほぼ全ての領域とつながっているため、ここを刺激すれば効果は広く伝わる」と、HRLの研究者で論文の共同執筆者のプラビーン・ピリーは述べている。

今回の実験で、電流の刺激が脳内のさまざまな領域の結合を変えることが分かった。神経活動の活発化ではなく、この結合の変化が学習能力を向上させることも分かった。

「脳内の離れた領域の結合が高周波帯域で増加し、低周波帯域で減少したことが、学習能力の改善の決定的な要因になった」と、ピリーは説明する。

一連の結果は、tDCSが脳の活動を広範囲に変化させるという考えと一致し、人間の脳機能の結合を変える低コストかつ非侵襲的な手法の開発につながるかもしれないと、研究チームは期待する。

今回の研究は、DARPAの能動記憶回復(RAM)プログラムの一環として行われた。同プログラムは、記憶障害などに関連した外傷性脳障害の治療を目指す。

「神経機能を代替する新しい装置」で傷ついた脳の隙間を橋渡しするためにも、開発を急ぎたいと、DARPAは考えている。脳機能のリハビリも大きく進化するかもしれない。


ニューズウィーク日本版のおすすめ記事をLINEでチェック!

linecampaign.png

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

[2018年1月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日銀利上げ容認へ傾いた政権、背景に高市首

ビジネス

「中国のエヌビディア」が上海上場、初値は公開価格の

ワールド

米司法長官、「過激派グループ」の捜査強化を法執行機

ワールド

トランプ政権、入国制限を30カ国以上に拡大へ=国土
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中