最新記事

米政府

トランプ政権の最後のとりでは3人の「将軍たち」

2017年9月5日(火)15時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

magw170905-us02.jpg

退役後、執筆活動に励んでいたマティスがトランプ政権に入ると聞いて周囲は愕然とした Jonathan Ernst-REUTERS

40~50年代のジョージ・C・マーシャル、21世紀の変わり目のコリン・パウエル(共に元国務長官)など、ホワイトハウスでは昔から退役将軍が大きな影響力を振るってきた。しかしマティス、マクマスター、ケリーの3人組ほどの影響力を行使して大統領に助言する例は過去にない。いずれも軍人として、学者として輝かしい名声を持つ。

コーエンが04年にイラクへ飛び、マティスに会ってマルクス・アウレリウスの『自省録』の最新英訳版を進呈したときのこと。受け取ったマティスは「さっそく蔵書から他の2つの翻訳版を取り出し、15分もかけて比較検討していた。そのうちの1冊はラマディの戦場に持参したものだった」という。

マティスは国防大学で国際安全保障の研究で修士号を取得した。コーエンに言わせれば「学ぶことをやめたことがない人間」で、蔵書は一時7000冊に達していたとされる。

一方、マクマスターは97年に発表した著書『義務の放棄』で、ジョンソン政権下のベトナム戦争における米軍の意思決定の欠陥を論じている。そこから、大統領の意向がどうあれ、大統領には常に最善の情報を伝えるべきだという教訓を引き出し、補佐官という立場で日々それを実践している。ケリーもジョージタウン大学で安全保障を研究して修士号を取得。その後、中佐時代にも国防大学で2年を過ごした。

しかし、この3人の将軍たちを結び付け、彼らの世界観を形作ったのはイラクにおける共通の経験だ。

【参考記事】日本の核武装は、なぜ非現実的なのか

オバマ外交を声高に批判

マティスがイラクに上陸した米軍を率いていたとき、ケリーは副官として、この上司の冷静沈着な判断ぶりを目撃している。例えば首都バグダッドへの侵攻中、ケリーはナシリヤの町の攻略を渋る連隊長に手を焼いて、マティスの指示を仰ぐよう命じた。するとマティスは連隊長の弁明を聞いた後、即座に彼を解任した。ナシリヤは落ち、すぐにバグダッドも陥落した。

その後、マティスは戦車と砲兵を引き揚げさせ、現地のイラク軍指揮者たちを訪ね、こう告げた。「今さら争うつもりはない。武器も置いてきた。だから、頼むから私の願いを聞いてくれ。ふざけたまねをするな。すれば1人残らず殺す」

マティスとケリーは共に労働者階級の出で、海兵隊に入隊した。少年時代のマティスはかなりのワルだったが、海兵隊に入って人が変わったという。

一方のマクマスターは若い頃から軍人を目指していた。軍隊系の高校に学び、陸軍士官学校に進んだ。湾岸戦争中の91年には戦車9台の部隊を指揮し、自軍は1台の損失も被ることなく、23分でイラク側の戦車28台を破壊した。この戦闘は今、陸軍士官学校の教材となっている。

その15年後、マクマスターはイラクの町タルアファルで非常に効果的な制圧作戦を指揮した。後に米軍司令官デービッド・ペトレアスが「増派」作戦のモデルとした戦いである。

ケリーのキャリアの頂点は、中南米と西インド諸島の米軍を指揮する南方軍司令官。この時、彼は不法移民がもたらす安全保障上のリスクに敏感になった。そして国境の開放や、不法移民を受け入れる都市を支持する政治家への嫌悪感を隠さなくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州首脳、防衛費増額巡り協議 ウクライナ平和維持軍

ワールド

台湾、米から数十億ドルの武器購入検討 自衛の決意示

ワールド

デルタ航空機が加トロント空港で事故、着陸時に横転か

ワールド

原油価格上昇、カスピ海ポンプへのドローン攻撃で供給
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞が浄化される「オートファジー」とは何か?
  • 2
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防衛隊」を創設...地球にぶつかる確率は?
  • 3
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VATも標的に
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    ロシアの戦車不足いよいよ深刻...「独ソ戦」時代のT-…
  • 10
    ドイツ国防「問題だらけ、解決策皆無」「ドローンは…
  • 1
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン...ロシア攻撃機「Su-25」の最期を捉えた映像をウクライナ軍が公開
  • 4
    2025年2月12日は獅子座の満月「スノームーン」...観…
  • 5
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 6
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 7
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 8
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 9
    iPhoneで初めてポルノアプリが利用可能に...アップル…
  • 10
    【クイズ】今日は満月...2月の満月が「スノームーン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中