最新記事

中国外交

対北制裁決議&ASEAN外相会議に見る中国の戦略

2017年8月8日(火)16時35分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

その報道の中で盛んに「倒向」という文字が出てくるのを確認することができる。これは「フィリピン(のドゥテルテ大統領)がすっかり中国に傾いた」ことを表している。そのフィリピンを引き続き中国に惹きつけ、8月5日から始まるASEAN外相拡大会議で完全に「中国に寄り添った意見を述べてもらう」ことが狙いだった。

つぎに、それでもなお念には念を入れて、王毅外相は7月25日からフィリピンを訪問し、マニラで再びフィリピンのカエタノ外相と会談した。このことをベトナムの通信社VNAが報道していることが、なんとも興味深い。つまり、必ずしも中国とはうまくいっていないベトナムは、中国のこの「根回し外交」に目を光らせていたということになる。

この会談で中国はさらに300万ドルの支援を、ISによる占領ですっかり廃墟の街と化したフィリピンのマラウィ市復興のためにフィリピンに給付することを約束した。一帯一路でも完全にフィリピンに有利なように奉仕することを誓い、今年11月の李克強首相のフィリピン訪問と、都合のいい日程で習近平国家主席をフィリピンに招聘することも取り付けたのである。

だから、8月5日からのASEAN外相会議では「必ず中国側に立て」ということだ。

議長国フィリピンを抱き込んだ中国は、南シナ海問題に関しても北朝鮮問題に関しても、基本、中国の主張を呑む形で合意させたのである。

残念ながらティラーソン米国務長官の存在感は薄れ、それは取りも直さず、トランプ政権のアメリカが、国際社会に与える影響力が減衰しつつある印象を、いやが上にも与えたのだった。

中国主導で北朝鮮問題を対話に持っていくリスク

中国が「中国は各関係者が、中国が提案している"双暫停"を受け入れることを希望している」と述べていることは前述した通りだ。つまり、東アジア情勢の中で最も大きな懸念の二つである「南シナ海問題」と「北朝鮮問題」を「中国主導で解決していく」ことが中国の狙いだ。

「南シナ海問題」に関しては中国すでにハーグの判決文は「紙屑」であるとして反古にした。代わりにASEANと中国が合意した南シナ海での各国の活動を規制する「行動規範(COC)」の枠組みを歓迎することを基本合意。

「北朝鮮問題」に関しては、「深刻な懸念を示し続ける」とした上で、「朝鮮半島の非核化への支持を改めて表明し、朝鮮半島の緊張緩和のための対話再開を求める」としている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中