最新記事

ISIS

イラン同時テロの狙いとは? なぜこのタイミングで?

2017年6月15日(木)10時00分
ウィル・マッキャンツ(ブルッキングズ研究所中東政策研究センター上級研究員)

国会議事堂が襲撃され、建物内にいた人たちが子供を脱出させている Omid Vahabzadeh-TIMA-REUTERS

<厳重な警備のテヘランで初めて攻撃を実行。全面的な宗派戦争を仕掛けるためか>

何年も待ちに待った末の執念の攻撃――先週、イランの首都テヘランと郊外で起きた同時テロがテロ組織ISIS(自称イスラム国)の犯行なら、そう呼んでいい。

首都中心部の国会議事堂を武装した4人組が襲撃。ほぼ同時に郊外にある革命の最高指導者ホメイニ師を祭った霊廟にも武装集団が侵入し、1人が自爆した。イランの政治的・宗教的中枢を狙ったこのテロで、少なくとも17人が死亡した。

事件後に犯行声明を出したISISは、国際テロ組織アルカイダの傘下にあった07年からイランを攻撃すると宣言していた。イスラム教スンニ派のISISにとってシーア派の盟主イランはイラクのシーア派政権を支援して、アラブ国家をイスラエルとアメリカに売り渡した背教の国だ。

この点がISISとアルカイダの大きな違いだ。アルカイダはイランを後方基地として、また資金流入の経由地として利用するため、攻撃を控えてきた。

【参考記事】テヘラン同時多発テロ 国会と霊廟を襲撃、3つ目の計画は阻止

アルカイダの創設者ウサマ・ビンラディンは07年、ISISの前身組織に宛てた文書で「やむを得ない事情がない限り、イランと戦う必要はない」とクギを刺した。それには訳がある。

01年の9.11同時多発テロ後、アルカイダのメンバーとビンラディンの家族らがイランに逃げ込んだ。イラン政府は彼らを自宅軟禁し、常時監視してその時々の戦略的な理由で締め付けを強めたり弱めたりしてきた。アルカイダはイランの「人質」となったメンバーを守り、アフガニスタンとイラクを結ぶ移動ルートを確保しておくために、イラン攻撃を控えてきたのだ。

ISISの前身組織は渋々ビンラディンの指示に従ったが、14年にアルカイダから分離すると、ISISの報道官はこれを宣伝材料にした。自分たちはイラン攻撃に燃えていたが、アルカイダがそれを制したと支持者たちに訴えたのだ。

「一発逆転」は望めない

今回のテロがISISの犯行だとすれば、なぜ3年間も実行を先延ばしにしたのか。理由はいくつか考えられる。1つは、イランでテロを決行する戦闘員をようやく確保できたこと。ここ数年、ISISはイラン人の新兵を次々に獲得し、訓練を行ってきた。今回のテロの実行犯は彼らの一部とみられる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日続伸、終値ベースの最高値更新 円安な

ビジネス

キリンビール、「東南アジア地域本社」設立 35年に

ビジネス

午後3時のドルは148円後半、3週間ぶり高値圏で戻

ワールド

台湾、超大型台風の死者数を14人に修正 行方不明3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    【クイズ】ハーバード大学ではない...アメリカの「大…
  • 5
    クールジャパン戦略は破綻したのか
  • 6
    週にたった1回の「抹茶」で入院することに...米女性…
  • 7
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 8
    トランプの支持率さらに低下──関税が最大の足かせ、…
  • 9
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 10
    9月23日に大量の隕石が地球に接近していた...NASAは…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 8
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    「ミイラはエジプト」はもう古い?...「世界最古のミ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中