最新記事

インタビュー

リンダ・グラットンが説く「人生100年時代」の働き方

2017年6月8日(木)14時51分
WORKSIGHT

wsLyndaGratton170608-2.jpg

家族の構成は急速に変わりつつある

家族のダイナミズムも変わっていくでしょう。誰か1人が大黒柱として一家を養いながら、なおかつ変身も遂げていくというのは無理な話です。共働きを望む若者が増えていますが、これは賢明なことと思います。どちらかが働いて、どちらかが学校で学び、それを交代で行うシーソー的な夫婦関係もあり得ます。

そういう考えが主流になれば、企業側も男性と女性が共に働き、共に家事や育児を担う仕組みに対応していかなければなりません。子どもを持たない夫婦も増えていくでしょうし、働く女性の増加も今後いっそう見込まれます。

すでに新しいパートナーシップのモデルが生まれて、家族の構成は急速に変わりつつあります。女性の労働力率を見てみると、一番割合が高いのはノルウェー、スウェーデン、デンマークといった北欧の国々です。日本や韓国は低いです。北欧は法制度が整備されていますし、子育てケアの支援も厚いうえ、働く女性に対する社会的偏見もありません。そうした環境づくりが女性の社会進出には不可欠といえます。

刷新を迫られる企業の人事制度

企業も多様性への対応を迫られます。みんなが同じ仕事を同じ時間に行う労働形態は、全ての従業員を十把ひとからげに扱えるので企業にとっては好都合でしたが、こういう働き方は終わりを迎えるでしょう。多くの国でいろいろな種類の働き方、働き手が出てきます。

人口動態的に見ても女性参画率は高まるでしょうし、年齢の高い労働者も増えてきます。共働きも増えるでしょう。労働形態も多様化して、フリーランスの働き手やジョイントベンチャー、マイクロアントレプレナーの数も増えると思われます。OECD諸国においては、従業員数10人未満の企業が9割を占めます。テクノロジープラットフォームを生業にする企業が多く、イノベーションに大きく寄与しています。多様性がイノベーションを生む土壌になっているのです。

【参考記事】働き方の多様性は人と企業にメリットをもたらす

さまざまな人がそれぞれに違う見方をしてネットワークが広がり、人材のエコシステムが育まれます。人が100歳まで生きる時代になると、もっとイノベーティブに、そしてクリエイティブに貢献する機会が増えることでしょう。より面白い仕事に出合うチャンスも増えるはずです。

そういった意味で、企業の人事制度も新しくしていく必要があります。新入社員が大学を出たばかりの若者とは限らなくなるでしょうし、一度退職した人が戻ってくるケースもあるでしょう。働いている途中で学びのステージに立ち寄り、スキルを再構築する人も出てくるかもしれません。

さらにいえば、引退年齢もなくなるかもしれません。60歳になって生産性が落ちる人も確かにいるかもしれませんが、それは一握りに過ぎないでしょう。それなのに60歳をひとくくりに定年とするのでは、企業にとっても損失を招くと思います。

【参考記事】今がベストなタイミング、AIは電気と同じような存在になる

80歳代まで生産的に働き続けるには政府の後押しも必要

政府も根本的に政策を見直していくことになるでしょう。日本の政府は高齢化に向けて世界でも先進的な取り組みをしていますが、人々が80歳代まで生産的に働き続けるにはさらなる後押しが必要です。例えば、年金に代わる経済基盤をどう作るか、多世代を支える生活資金をどう構成するか、さまざまな観点があると思います。

寿命が100年に延びる時代がやってくる。それは社会に一大変革をもたらします。個人も家族も企業も政府も、みんな変わっていかなければならない時代がもうすぐそこまで来ているのです。

変化はチャンスでもあります。いまみなさんの目の前にはさまざまなチャンスがあふれています。もう一度人生を再設計できるということです。前回の本、『ワーク・シフト』では働き方の再設計を提案しましたが、今回の『ライフ・シフト』では人生に関しても再設計できるんだということをお伝えしています。

私たち、そして子どもたちに対して、人生を再設計する素晴らしいチャンスが今まさに到来しているのです。そのことを理解し、前に進んでいくための一助としてこの本がお役に立てばうれしいです。

WEB限定コンテンツ
(2016.10.25 中央区のベルサール汐留にて取材)

text: Yoshie Kaneko
photo: Kei Katagiri

※インタビュー後編:長時間労働の是正がブレークスルーをもたらす

wsLyndaGratton170608-site1.jpgロンドン・ビジネススクールは英国・ロンドンにあるビジネススクール。世界で最高位のビジネススクールであり、MBAプログラムや金融実務経験者を対象としたマスターズ・イン・ファイナンス(MiF)プログラムは世界トップレベルと評価されている。
http://www.london.edu/

wsLyndaGratton170608-site2.jpg「THE 100-YEAR LIFE」のウェブサイト。リンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏による、人生100年時代の生き方や働き方について探るサイト。無形資産の有用性を診断するテストは1万人が受けたという。
http://www.100yearlife.com/

『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社)はリンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏(ロンドン・ビジネススクール経済学教授)の共著。寿命が100歳に延びる時代を戦略的に生き抜くため、どのように生き方、働き方を変えていけばいいかを示している。

wsLyndaGratton170608-portrait.jpgリンダ・グラットン(Lynda Gratton)
ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。2年に1度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。フィナンシャルタイムズ紙「次の10年で最も大きな変化を生み出しうるビジネス思想家」、英タイムズ紙「世界のトップ15ビジネス思想家」などに選出。邦訳されベストセラーとなった『ワーク・シフト』(2013年ビジネス書大賞受賞)などの著作があり、20を超える言語に翻訳されている。‎‎

※当記事はWORKSIGHTの提供記事です
wslogo200.jpg


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米マイクロソフト、英国への大規模投資発表 AIなど

ワールド

オラクルやシルバーレイク含む企業連合、TikTok

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで4年ぶり安値 FOM

ワールド

イスラエル、ガザ市に地上侵攻 国防相「ガザは燃えて
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    出来栄えの軍配は? 確執噂のベッカム父子、SNSでの…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中