最新記事

医療

疑わしきは必ず罰するマンモグラフィーの罠

2017年3月10日(金)20時15分
リズ・サボ

検査で何らかの異常が見つかれば生検などの精密検査を受けることになり、そこに過剰診断のリスクが潜む。乳癌検診の在り方に問題はないのか。米厚生省の医療研究品質局は、40~69歳の女性が乳癌で死亡するリスクはマンモグラフィーで25~31%ほど減るとしている。

最も強力にマンモグラフィーを推奨する放射線医学会は、40歳以上の女性に毎年1度の検診を勧めている。腫瘍は「小さく、治療が楽なうちに」発見するべきだと、モンティチョーロは力説する。

一方、政府諮問機関の米予防医療対策委員会は09年に、50歳以上の女性には隔年のマンモグラフィーを推奨すると発表した。同委員会によれば、乳癌の発症リスクは年齢とともに上がるから、50歳以上ならばマンモグラフィーで悪性腫瘍が見つかる確率は高まると考えられる。

【参考記事】「野菜足りてる?」手のひらでチェック

進行癌の数は減らない

癌協会も15年に方針を改め、45~54歳の女性には毎年の、55歳以上には2年に1度の検診を勧めるとした。

デンマークの研究チームは内科学会紀要に発表した論文で、マンモグラフィーの導入前後で発見された初期癌と進行癌の数を比較し、過剰診断の割合を調べた。検診に政府の狙いどおりの効果があるなら、治療可能な小さな腫瘍が増え、大きく深刻な癌は減るはずだ。

論文を共同執筆した北欧コクラン・センターのカーステン・ヨーゲンセン博士によれば、マンモグラフィーの導入後、乳癌の発見数はぐんと上がった。見つかる癌のほとんどは初期の小さな腫瘍だ。しかし、それでも進行癌の数は減っていない。

医療技術には限界があると、ブローリーは言う。統計的には過剰診断の割合を推測できても、現場の医師には治療の必要な腫瘍とそうでない腫瘍を正確に見分けることができない。だから医師は用心のため、全ての乳癌を手術や放射線、抗癌剤で治療しようとする。

今年もアメリカでは25万3000人が新たに乳癌と診断され、4万1000人が乳癌で死亡すると見込まれる。これとは別に、非浸潤性乳管癌(DCIS)と診断される女性が6万3000人。DCISは、悪性になる可能性は否定できないが、まだ乳管の外に広がっていない腫瘍のことだ。

癌協会はこれを最初期の乳癌と位置付けており、浸潤性の癌と同様な治療を勧めている。DCIS自体は命取りにならないが、浸潤性の癌になる可能性を考慮して治療を勧めるわけだ。ただし、DCISは癌の危険因子の1つにすぎないから経過観察にとどめるべきだとする専門家の見解もある。

DCISの積極的治療は必要なのか、不要なのか。研究は進められているが、検診やDCISについての明確な答えが出るのはまだまだ先になるだろう。

当面は患者も医師も、手探りのまま難しい選択をしていかなければならない。

[2017年3月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

「ディール」迫るトランプ氏、ゼレンスキー氏は領土割

ビジネス

アングル:屋台販売で稼ぐ中国の高級ホテル、デフレ下

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に入る国はどこ?
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 10
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中