最新記事

アメリカ経済

米共和党はトランプ経済政策にNOと言えるか

2017年1月11日(水)21時16分
ペドロ・ニコラチ・ダ・コスタ

共和党指導者の一人、ポール・ライアン下院議長(右)はトランプと戦えるか Joshua Roberts-REUTERS

<トランプの大きな政府に対して共和党は小さな政府、自由貿易に介入するトランプに対して共和党は自由主義。共和党は伝統的信条に反するトランプのやり方に反旗を翻すかもしれない>

 ドナルド・トランプ米次期大統領の経済政策の柱は「bigly(トランプ流でbigの造語)政府」。与党・共和党の伝統的信条「小さな政府」と正面から衝突する。

 政治経験のないトランプの強引で衝動的な経済政策に対して、政府の過剰な関与を否定する共和党議員はカンカン。党内の亀裂は既に明らかだ。トランプと共和党が選挙に勝利してから市場は成長期待で上昇してきたが、経済政策をめぐる与党内の対立が足かせとなり、政治が停滞する恐れが出てきた。

【参考記事】世界経済に巨大トランプ・リスク

「不動産王」から大統領へ転身するトランプはつい先日も、米自動車大手フォード・モーターがメキシコ工場の新設を撤回し、米ミシガン州の既存工場を維持することにしたのを自分の「手柄」にした。同社のマーク・フィールズ最高経営責任者(CEO)が、米大統領選の前から決めていたことだと明かしてもお構いなしだ。空調機器メーカーのキヤリアが国内に留まったのも、巨額の税優遇措置を提供したからだ。

共和党とは水と油

 米経済に有益な自由貿易に反対し、保護主義に舵を切るぞと脅し続けるトランプは、経済に対する政府の関与を強め、マクロ経済政策にもビジネス的な取引手法を持ち込む構え。伝統的に小さな政府と自由貿易を掲げてきた共和党は、トランプ政権下でどう折り合いをつけるのだろうか。

【参考記事】トランプ新政権で米国は好景気になる可能性が高い

 伝統的な保守派の共和党議員は、トランプの選挙戦中の言動だけでなく、新政権の布陣に疑いの目を向け、トランプが掲げたいくつかの政策目標に大きな不安を抱いてきた。大統領に大した権限はないが、連邦議会選で共和党を勝利に導いたという建前があるため、議員側は口を挟めなかった。だが、政権交代で大統領と上下両院の過半数を共和党が掌握すれば、反トランプ派が頭角を現し、公然と反対を主張し始める可能性がある。

 トランプがこれまでに指名した政権トップの顔触れは、選挙戦で声高に叫んできた自由貿易反対の主張が、単なるリップサービスでなかったことを示している。とりわけ、新設する大統領直属の国家通商会議(NTC)のトップに、著書『中国による死』をはじめ中国の政策を強く批判するピーター・ナバロ米カリフォルニア大教授のような人物を起用したため、TPP(環太平洋連携協定)など国際的な貿易の枠組みを築くどころではなくなった。

【参考記事】トランプの経済政策は、アメリカだけが得をする「歪んだグローバリズム」


 トランプの政策で鍵となる公共投資も、共和党に阻まれそうだ。共和党はバラク・オバマ大統領による同様の計画に頑なに反対した経緯がある。同じ共和党から選出された大統領が提示する事業なら、よりオープンな姿勢を見せる可能性はある。だがトランプの側近と共和党の間に大きな溝があることを考えれば、政策で双方の妥協点を見つけるのは至難の業だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中