最新記事

人身売買

ネパールの被災地に巣くう人身売買ビジネス

2016年12月7日(水)11時00分
スティーブン・グローブズ

magw161206-nepal02.jpg

Navesh Chitrakar-REUTERS

仕事という餌につられて

 ネパール警察とNGO(非政府組織)は封じ込めに躍起だ。検問所を増やしてバスを監視し、村々で啓発運動を実施している。警察によれば被災地からの人身売買の容疑者352人を逮捕したが、取り逃がす件数のほうが多いという。

 人身売買業者がなかなか捕まらないのは、仕事を紹介してやるという約束を信じた被害者が進んで国境を越えるからだと、女性と子供に対する犯罪の捜査を担当するラム・クマル・カナル副監察官は言う。「被害者でさえ警察に届け出たがらず、逆に隠したがる。そして国境を越えてしまったら、われわれにとっては厄介だ。こちらの管轄ではなくなってしまう」

 凶悪な犯罪はネパール国内でも起きている。9月、首都カトマンズの観光エリアでアメリカ人が逮捕された。児童養護施設から連れてこられた子供に性的虐待を加えた容疑だ。ネパール中央捜査局のナワ・ラージ・シルワル局長によれば、人身売買業者が子供の両親に金を渡し、カトマンズで仕事に就かせると約束したという。

「地震も人身売買を助長したと思う」とシルワルは言う。「被災地から多くの子供がカトマンズに連れてこられている」

【参考記事】地震に乗じてネパールに恩を売る中国

 地元の活動家は、家族が一緒に暮らせるよう、ニワトリやヤギの飼育など小規模ビジネスを始めるための訓練と資金を提供している。人身売買と地震の被害が特に大きいシンドゥパルチョーク郡イチョクでは、地元のNGOパートナーシップ・ネパールが、極めて困窮している200世帯に起業資金350ドルを助成している。

 貧困の拡大となくならない人身売買に苦戦を強いられていると、パートナーシップ・ネパールを運営するスニタ・ブカジュは言う。「女性と結婚しては、国外に送り出すことを繰り返している男性もいる」

 見通しは暗い。ブカジュのNGOの資金はあと3カ月で底を突く。

「最悪だ」とブカジュは嘆く。「6年間ここで暮らし、働いているが、地震の後は人身売買が日に日に増えている。3カ月後に事務所を閉めることになれば、歯止めをかける者が誰もいなくなる」

From GlobalPost.com特約

[2016年12月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前のドルは157円半ば、10カ月ぶり高値 円安け

ワールド

スロバキア、ロシア産ガス供給停止計画巡りEU提訴検

ワールド

米の対スイス関税、数日中に引き下げ見込み

ビジネス

英パリサーが日本郵政の価値向上策、株価は「過小評価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、完成した「信じられない」大失敗ヘアにSNS爆笑
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    衛星画像が捉えた中国の「侵攻部隊」
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    ホワイトカラー志望への偏りが人手不足をより深刻化…
  • 10
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中