最新記事

過敏性腸症候群

つらいおなかの悩みを救う「低FODMAP」食事療法って?

2016年12月10日(土)11時00分
ジェシカ・ファーガー(ヘルス担当)

Joan Ransley-Moment/GETTY IMAGES

<慢性の腹痛や下痢、便秘......過敏性腸症候群の症状緩和には短鎖炭水化物の摂取を減らす治療が有効>(写真:キヌアの実の上に焼き野菜とホウレンソウをのせ、低脂肪のヨーグルトをトッピングしたIBS患者向けメニュー)

 ボストンの栄養士ケイト・スカーラタは2年前にある専門家会議で、目標は「IBSをもっとセクシーに語ること」だと宣言して参加者の笑いを誘った。彼らは今頃、もっと真剣に受け止めればよかったと後悔しているかもしれない。

 IBSとは、過敏性腸症候群のこと。スカーラタは、この病気をはじめとする胃腸の機能障害に悩む数百人の患者に手を差し伸べてきた。数年、時には数十年も下痢や便秘、腹部の膨満感やガス、腹痛などのつらい慢性症状に苦しんでいる人々だ。

 排泄物やおならの話が絡む胃腸の悩みを大っぴらに語ることはタブー視されていると、スカーラタは言う。「それでも、私がパーティーの席などで自分の職業を明かすと、近くにいる人たちが身を乗り出すようにして質問してくる」

 スカーラタはそんな人々やIBSの患者に、「発酵性のオリゴ糖、2糖類、単糖類、ポリオール」の説明をする。この4つをまとめた略語がFODMAP。小腸で吸収されにくい「短鎖炭水化物」のことだ。

【参考記事】愛犬とのキスは危険がいっぱい

 このFODMAPがIBSを含む胃腸疾患の元凶であることを示す研究が増えている。小腸でうまく吸収されないFODMAPは、やがて大腸に入る。それを大腸内の細菌が食べ、水素やメタンのようなガスを出す。

 このプロセスが大腸を膨張させ、腸壁の神経が痛みの信号を脳に送る。症状は断続的な場合も慢性的な場合もあるが、FODMAPの少ない食事を取れば、多くが改善するようだ。

 スカーラタを含む多数の栄養士や医師によると、胃腸疾患の症状に悩む人が「高FODMAP食品」を控えると、驚くような変化が起きる。その多くは、リンゴ、ヨーグルト、ナッツ、全粒小麦、低脂肪乳など医師たちが長年、胃腸疾患の患者に摂取を推奨してきた食品だった。

ブームを狙う食品会社

「低FODMAP」の食事療法が、IBSの腹痛に有効なことを示す研究も増えている。例えば先日、ミシガン大学病院の研究者が学術誌ガストロエンテロロジーに発表した論文によると、50%以上の患者に症状の改善が見られた。61%の患者は6週間の食事療法で生活の質が全面的に改善した。

 アメリカでは人口の20%がIBSに悩んでいる。15年に全米胃腸病学協会が3200人のIBS患者を対象に実施した調査によると、回答者の3分の1がすぐにトイレを使えない状況は避けるようにしていると答えた。

 また、多くの回答者がIBSから解放されるのなら、人生の大切な楽しみを1カ月我慢してもいいと答えた。インターネットを止めてもいいという回答は全体の半分近く、セックスでもいいという回答も40%あった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米国務長官、今週のウクライナ和平交渉に出席せず 訪

ビジネス

米国、英国に自動車関税10%から2.5%への引き下

ワールド

米財務長官、アルゼンチンに信用枠供与の用意 為替安

ビジネス

FRB議長「解任しない」とトランプ氏、利下げなお要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 8
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 9
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中