最新記事

ミャンマー

ロヒンギャ問題でスー・チー苦境 ASEAN内部からも強まる圧力

2016年12月26日(月)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

バングラデシュで捕まったロヒンギャ難民(2016年11月) Mohammad Ponir Hossain-REUTERS

<10月から再び激しさを増しているミャンマー国軍によるロヒンギャ弾圧。もはや「治安ではなく軍事作戦、このままでは絶滅する」と人権団体が言うほどの虐殺を放置するスー・チーに、イスラム人口を多く抱えるマレーシアやインドネシアが抗議の声を上げ始めた>

 ASEAN(東南アジア諸国連合)内部でミャンマーが苦境に立たされている。ミャンマー西部に居住するイスラム教徒の少数民族ロヒンギャに対するミャンマー政府、国軍などによる「過酷な人権侵害」に対し、イスラム教国のマレーシア、イスラム教国ではないものの世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアがミャンマーを厳しく批判し始めたからだ。

 批判の矛先はミャンマーの実質的指導者であるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相。民主化運動の旗手として国際社会や一般市民の期待を一身に受けてノーベル平和賞を受賞(1991年)、そして国家指導者に就任したスー・チーへの集中砲火と失望が拡大しつつある。

【参考記事】対ミャンマー制裁、解除していいの?

 長年に渡った軍政による強権支配のくびきを脱し、ようやく民主化を実現したスー・チー率いるミャンマーは一体これからどこへ向かおうとしているのだろうか。

虐殺、暴行、放火と深刻な人権侵害

 隣国バングラデシュと国境を接するミャンマー西部ラカイン州で10月9日、国境に近い地域の警察施設など3か所が武装集団に襲撃され、警察官9人が死亡する事件が発生した。

 武装集団の正体は不明だが、国軍は同州に多く居住するロヒンギャの反政府組織による犯行と一方的に断定、ロヒンギャの人々が暮らす集落への攻撃を開始したのだ。

 タイに本拠を置く人権団体などによると、ロヒンギャ族が生活する住居は略奪の後放火され、男性は虐殺され、女性は暴行を受けるなどの深刻な人権侵害が続いているという。

【参考記事】存在さえ否定されたロヒンギャの迫害をスー・チーはなぜ黙って見ているのか

 越境してバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民は2万人以上に達している。

 人権団体は「現在の状況は治安維持を超えた軍事作戦レベルであり、このままではロヒンギャ族が絶滅しかねない民族浄化が続いている」と国際社会に「ロヒンギャ問題への介入」を強く訴えている。

【参考記事】ミャンマー政府の主導で進むロヒンギャ絶滅作戦

スー・チーは「調査」を明言

 こうした中、マレーシアで12月4日に開催された「ロヒンギャ迫害を続けるミャンマー政府に抗議する集会」に出席したナジブ首相が「事態を静観、放置しているスー・チーは一体何のためにノーベル平和賞を受賞したのか」とスー・チーを厳しく非難した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中