最新記事

ミャンマー

ロヒンギャ問題でスー・チー苦境 ASEAN内部からも強まる圧力

2016年12月26日(月)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

 度重なる国軍の人権侵害から隣国バングラデシュに逃れたロヒンギャ難民の受け入れをバングラデシュ政府が公式には拒否しているため、海路ラカイン州を脱出、イスラム教徒が多数住むマレーシアやインドネシアを目指すボートピープルもASEAN域内の喫緊の課題として浮上している。

 こうした背景の中で12月19日、ミャンマーの最大都市ヤンゴンでASEAN非公式外相会議が開かれた。ホスト国ミャンマーのスー・チーは「ロヒンギャ問題」を素通りすることは許されない状況であり、「極めてデリケートな問題」であるとしたうえで「(解決には)時間が必要」との立場を示した。

 会議では「国軍による人権侵害」を懸念する声があがり、スー・チーも「事実関係の調査」を明言したという。国際社会だけでなく、いわば「身内」でもあるASEAN加盟国内からも追究の狼煙が上がるに至り、スー・チーもロヒンギャ問題に取り組まざるを得なくなった形だ。

仏教徒や国軍に強い反ロヒンギャ感情

 2016年の国家顧問兼外相就任以来、スー・チーはタイ国境周辺の少数民族との和解、民主活動家や学生運動家などの政治犯の釈放など国民と国際社会の期待に応えるべく民主化を進めてきた。ところがロヒンギャ問題に関する限りスー・チーは「大方の予想を裏切って静観を続けるというより、国軍の人権侵害を黙認している状態」(タイ英字紙記者)と批判にさらされている。

 背景には国民の多数を占める仏教徒、僧侶団体、強硬姿勢の国軍の支持を失いたくないとの政治的立場の弱さがあると指摘されている。「野にあって反軍政の立場の時は何事も恐れず果敢に理想に邁進したスー・チーだが、権力者の立場になるとあちらを立て、こちらに配慮、とまさに政治家に変質してしまった」(ミャンマーウォッチャー)というのだ。マレーシアのナジブ首相の批判もASEAN内のそうした空気を反映したものと言える。

インドネシア主導で仲介工作

 ナジブ首相に次いでインドネシアのジョコ・ウィドド大統領がロヒンギャ問題で積極的に動いている。12月6日、レトノ・マルスディ外相をミャンマーに派遣してスー・チーとロヒンギャ問題で直接協議をさせた。会談でインドネシア側は「ロヒンギャ問題は人権問題であり、イスラム教徒でもある彼らをインドネシア政府は支援する方針である」と伝えた。ジョコ大統領はミャンマーがインドネシアと同様の多民族国家であり、多様性を許容することが重要であるとの姿勢を強調することで問題解決の糸口を見出そうとしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中