最新記事

ミャンマー

ミャンマー政府の主導で進むロヒンギャ絶滅作戦

総選挙を控えたミャンマーで続く少数民族迫害、その激化を伝える報告書が発表された

2015年11月5日(木)16時30分
ルーシー・ウェストコット

迫害に追われて 漁船で漂流中に発見され、難民キャンプに送られるロヒンギャ族とみられる人々 Soe Zeya Tun-REUTERS

 ミャンマー(ビルマ)で暮らす少数民族のロヒンギャ族を取り巻く状況は、ホロコーストやルワンダ大虐殺に匹敵する「ジェノサイド(集団虐殺)への最終局面」に入っている。しかも迫害を主導するのは政府の最上層部だ──歴史的な総選挙を目前に、英ロンドン大学クイーンメリー校の「国際国家犯罪イニシアチブ」が、18カ月にわたる調査の結果を発表した。

 ロヒンギャ族絶滅作戦がミャンマー政府によって30年前から進められていることを示す「有力な証拠」が見つかったという。106ページの報告書には、入手した公文書や詳細な目撃証言などを根拠に、深刻な食料不足や雇用機会・医療サービスの欠如、イスラム教徒以外の村民や仏教徒から受ける差別や暴力の実態が克明に示されている。

 ロヒンギャ族はミャンマーに住むイスラム教徒の少数民族。110万人ほどいるが、基本的人権は否定されており、政府は彼らの存在を同国の歴史から抹消しようとしているらしい。

 ロヒンギャ族はレイプや拷問、殺害、恣意的な拘束や土地の接収などの人権侵害を受けている。居住地や移動の制限、散発的な虐殺も行われ「政府は長期的に、この集団の弱体化と排除」を図ろうとしているという。

 政府はロヒンギャ族を自国民と認めず、赤ん坊が生まれても出生証明を発行しない。彼らは今度の選挙で投票も立候補もできない。「ジェノサイドは、段階的に進む社会プロセスとして捉えることが重要。さもないと最悪の事態を迎える前に介入できない」と言うのは、この調査を主導した法学教授のペニー・グリーンだ。

「今回の選挙で、ロヒンギャ族の政治プロセスからの排除は一層進む」とグリーンは言う。それはホロコーストや、ツチ族を中心に80万人以上が殺されたルワンダ大虐殺に匹敵し、20世紀の南アフリカにあったアパルトヘイト(人種隔離政策)よりもひどい状況にある。

 ロヒンギャ族は不法移民やテロリスト扱いされ、彼らの暮らす西部ラカイン州では、民族主義者や仏教徒から「人種的宗教的憎悪」の標的にされている。

苦痛を与えて排除を狙う

「大量虐殺という手段に出なくても民族集団を消すことは可能だ」と、ラカイン州で4カ月の実地調査を行ったグリーンは言う(調査チームは同州北部への立ち入りを拒まれた)。極度の苦痛を与えれば、人々はその土地を去る。残った人々は無権利状態で事実上の収容所暮らしを強いられ、やがて世界各地へ散っていくことになるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国、和平合意迫るためウクライナに圧力 情報・武器

ビジネス

米FRB、インフレリスクなく「短期的に」利下げ可能

ビジネス

ユーロ圏の成長は予想上回る、金利水準は適切=ECB

ワールド

米「ゴールデンドーム」計画、政府閉鎖などで大幅遅延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中