最新記事

2016米大統領選

【対談(後編):冷泉彰彦×渡辺由佳里】トランプ現象を煽ったメディアの罪とアメリカの未来

2016年10月25日(火)15時20分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

pedialogue02-02.jpg

オバマの高い支持率を、ヒラリーは引き継げていない Kevin Lamarque-REUTERS

【渡辺】「振り子の揺り戻し」と回復力について、同感だ。大統領選後に二大政党はどちらも自分たちのアイデンティティについて深く内省することになる。特に共和党は現在「内戦状態」にあると言っていい。強い外交と「小さな政府」を掲げる、かつての共和党に戻りたい人たちと、今回トランプを支援した人たちが、どのように協調して共和党を立て直していくのか、その点は注目される。

 一方の民主党は、今回サンダースの登場で相当に左寄りになってしまった。しかしサンダースはまた無所属に戻るので、熱烈な支持者が民主党に残るとは思えない。今後の民主党は、若年層への支持を広げること、そして党上層部の透明化を図っていくことが必要だ。

 またネットやソーシャルメディアを使った新しい戦略は、こらからの選挙戦の柱になるだろう。それでも、従来からの「地上戦(選挙ボランティアによる電話や戸別訪問による働きかけ)」はなくならない。今回も激戦州では、有権者登録や事前投票で「地上戦」は重要な役割を果たしている。これはネットではできないことだ。

 そして、これからの政治家がやらなければならないのは、わかりにくい政策をわかりやすく解説する「有権者教育」なのではないか。

<参考記事>トランプにここまで粘られるアメリカはバカの連合国

【冷泉】まさにそれを、ヒラリー自身が、昔ルーズベルトが国民に語りかけた「炉辺談話」のような形式でやって欲しい。仮にヒラリーが大統領になったら、優秀な若い人材をどんどん活用して、複雑な国際社会の問題を解決できる人材を「ヒラリー学校」で育てていくべきだ。

 アメリカは今後ますます知的産業が中心の社会となって、世界を牽引していくことになる。今後そうした社会変化への理解が広がると思うが、それを妨げるものがあるとしたら、右と左の感情論だ。ヒラリーには、就任後に実績を示して、そのような感情論を抑えていくことを期待したい。ただ、就任当初の支持率はオバマのようには行かないだろう。2年後の中間選挙での敗北は絶対に許されない。従って、最初の1年で大きな実績、しかも世論に強い印象を与える政治がどうしても必要になる。それがヒラリーの最初の関門になるだろう。

【渡辺】もしヒラリーが当選したら、予想外に良い大統領になると期待している。彼女は、有能なマネージャーであり、実務主義者だからだ。

 ヒラリーは選挙に出ると、ライバルやメディアに叩かれて「好感度」や支持率が落ちる。しかし、実際に仕事をしている間は支持率が高い。ファーストレディーとして政策に関与していたときですら支持率は62%あり、上院議員の仕事を終えたときには58%、国務長官時代には、オバマやバイデン副大統領よりも高い66%あった。

 マネージャーとしての腕を発揮して、機能不全に陥っている議会や国政を前進させてもらいたい。

ニューストピックス:決戦 2016米大統領選

ニューストピックス:【2016米大統領選】最新現地リポート

冷泉彰彦氏の連載コラム「プリンストン発 日本/アメリカ新時代」

渡辺由佳里氏の連載コラム「ベストセラーからアメリカを読む」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中