ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師 ―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―

 一般的に言われているのは、この殺戮の加害者は、1995年以降コンゴ北東部にいる、ウガンダのイスラミスト系反政府勢力(ADF)であることだ。しかしある調査によると、市民を守るはずのコンゴ軍が逆に攻撃し、しかも市民一人を殺害すると250米ドル(約25,000円)の報酬がもらえると言われている。

 国連の機密報告書も、殺戮の責任者がコンゴ軍であり、同軍の将軍が市民を殺害する目的でADFをリクルートし、資金を提供し、そして武装したことを明記している。

 コンゴ東部の紛争について簡単に説明しよう。1990年代後半以降、コンゴ東部にはADFのような外国反政府勢力、国内の反政府勢力や民兵を含む、少なくとも40の武装勢力が相互に、またコンゴ軍やルワンダ軍と戦闘しているため、紛争が20年間続いていると言われている。コンゴ軍は治安回復のために、それらの反政府勢力に対して掃討作戦(敵を排除するための軍事活動)を行ってきたが、なかなか紛争は治まらない。

 それもそのはずだ。ベニに限定すると、コンゴ軍とADFは戦闘しているというより、実は「協力関係」にあるからである。例えば、国連専門家グループの最新報告書によると、コンゴ軍はADFに弾薬、制服と食糧を提供したことが明らかになっている(注3)。同様に、ルワンダ軍とルワンダの反政府勢力も政治的に敵対関係にあると認識されているが、同様に経済的に協力し合っている(注4)。

 さらに悪いことに、世界最大級のPKOである国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)はコンゴ軍だけでなく、反政府勢力との「協力」を通して、「紛争」の長期化に加担している。例えば、インド軍のPKO要員はルワンダ反政府勢力(FDLR)を武装解除せず、国連の食糧配給をその反政府勢力に金(ゴールド)と引き換えに横流しをしていることが報道された(注5)。また2009年に、コンゴ軍主導の対FDLRの掃討作戦が実施され、悪名の高かった作戦として知られている。それは、子ども兵士の徴集の容疑で国際刑事裁判所(ICC)に起訴されていたボスコ・ンタガンダというコンゴ軍の将軍 (注6)が本作戦を主導したからで(注7)、MONUSCOがその後方支援を担当していた。MONUSCOは、ンタガンダ将軍がこの掃討作戦を主導したことを否定したが、ンタガンダ将軍の関与が真実であれば、PKOは戦争犯罪人と協力していたことを意味する。スキャンダラスな問題として報道された(注8)。

――――――――

(注3)UNSC, S/2016/466, 23 May 2016, para. 200
(注4)UN Group of Experts, S/2002/1146, 16 October 2002, para. 68
(注5)Martin Plaut, 'Congo spotlight on India and Pakistan', BBC, 28 April 2008
(注6)ボスコ・ンタガンダは、同時に「コンゴ」反政府勢力CNDPの将軍も兼任していた。ICCは2012年にも、ンタガンダに戦争犯罪および人道に対する罪の容疑で2回目の逮捕状を発行した。逮捕状には、ンタガンダの国籍が「『ルワンダ人』と信じられている」と記述されている。ンタガンダは2013年3月にルワンダに逃亡しICCに自主的に投降したが、それは自己保身のためであった可能性が高い。
(注7)UNSC, S/2009/603, 23 November 2009, para.183
(注8)BBC, 'Congo Ex-Rebel "Working with UN",' April 29, 2009.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

エプスタイン文書にトランプ氏名前か、司法長官が5月

ワールド

次期FRB議長、12月か1月に発表の可能性=米財務

ワールド

米、AI政策計画発表 規制緩和や同盟国への輸出拡大

ビジネス

英CMA、米アップルとグーグルにアプリ配信方法の公
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:山に挑む
特集:山に挑む
2025年7月29日号(7/23発売)

野外のロッククライミングから屋内のボルダリングまで、心と身体に健康をもたらすクライミングが世界的に大ブーム

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 4
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 5
    「マシンに甘えた筋肉は使えない」...背中の筋肉細胞…
  • 6
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 7
    「カロリーを減らせば痩せる」は間違いだった...減量…
  • 8
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 9
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 10
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中