最新記事

医療技術

人体に無害の「食べられる電池」

2016年8月31日(水)17時10分
高森郁哉

Bettinger Lab

 米カーネギー・メロン大学の研究チームが、「食べられる電池」を開発した。人体に無害の素材で作られ、将来的には体内の特定部位での投薬を補助したり、センサーを駆動するといった用途が考えられるという。

 アメリカ化学会(ACS)の全国大会で8月23日、研究成果が発表され、米ニューズウィークなどが報じている。

第2世代の「ハイテク錠剤」

 チームを率いるのは、カーネギー大で材料科学と生物医学工学を専門とする准教授のクリストファー・ベッティンガー氏。「診断や疾病治療のために、"食べられる電子機器"を実現することは、何十年も前から構想されてきた」と同氏は語る。

 約20年前、カプセル内視鏡が開発され、すでに実用化されている。ただし、このカプセルは人体に有害な物質を含む。自然排出されることを想定しているが、消化管の途中にとどまった場合、手術で摘出する必要がある。

 食べられる電子機器の第1世代をカプセル内視鏡とするなら、カーネギー大のカプセル電池は第2世代となる。人体に無害な電池にするため、主要成分には、毛髪や皮膚などにも含まれるメラニンを採用。メラニンは、イオンを結合したり、分離したりする性質を備える。

 陽極と陰極のいずれか一方の役割をイオンが担い、残りの極にはマグネシウムなどのミネラル(無機質)を配置する。ミネラルも体内に含まれる物質だ。

 これらの物質をまとめておくために、でんぷんなどの炭水化物が添加される。

体内の液体に触れると作動

 飲み込まれたカプセル電池が体内の液体に接触すると、回路がつながり、電池がオンの状態になる。供給する電力は約0.5ボルトで、単三乾電池(1.5ボルト)の3分の1に相当する。

 カプセルのサイズは、長さが最大1.3センチ、幅が2ミリほど。この大きさで、約20時間の電力供給が可能だ。排出されずに体内にとどまった場合でも、数週間程度で分解されるという。

【参考記事】豚の腸でできた折り紙マイクロロボットで、誤飲した電池を胃から取り出す
【参考記事】体内に注射できるほど小さなカメラを3Dプリンターで作成

期待される用途

 食べられる電池は将来、さまざまなデバイスの電源として応用されることが期待されている。有望なのは、体内で最も効果的に吸収される部位まで薬物を運び、そこで投薬するようなデバイスだ。

 ほかに、消化系の異なる部位に存在するバクテリアを判別するセンサーと組み合わせることも考えられるという。肥満、糖尿病、炎症性腸疾患の診断や治療に役立つ可能性がある。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・午前=S&P・ナスダックが日中最高値

ビジネス

米アルファベット、時価総額が初の3兆ドル突破

ワールド

トランプ氏、四半期企業決算見直し要請 SECに半年

ワールド

米中閣僚協議、TikTok巡り枠組み合意 首脳が1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中