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天安門事件から27年、品性なき国民性は変わらない

2016年6月3日(金)17時16分
譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)

 とにかく亡命者たちはよく集まって会議をした。亡命初期には「天安門事件の悲惨な結果を招いた責任は、だれにあったか」という議題が中心だった。無論、武力弾圧した中国政府の責任は重いが、民主化運動を主導した我々にも「非」があったのではないかという反省のもとで、学生と知識人は互いに激しく批判しあい、いがみあった。

 数年後の会議では、議題は未来のことに転じて、「中国政府を打倒した後、どのような新政府を樹立すべきか」について話しあった。彼らはまず「国旗」を決めた。次いで「綱領」を作った。それから「新政府の各省庁」を設立した。無論、紙の上でのことである。その後のことは、会議場を提供したアメリカのホテルで大きな笑い種になった。

 亡命者たちは、だれが大臣に就任するかで激しい論戦になり、挙句の果てに取っ組み合いの喧嘩が始まったのだ。

 世界中から集まった亡命者数十人の宿泊費と会議場のレンタル費用はかなりの金額になったはずだが、全額を支援したのは香港の財界だったから、いわば金をどぶに捨てたのも同然だったろう。しかし当時、米国のクリントン大統領の誕生日に大金をプレゼントしたという噂が流れた香港のある財界人は、会議の結末を聞いても怒りもせず、「彼らは金があると元気になって論争する。金がないと途端にしょんぼりする。でもやっぱり捨ててはおけないしね」と、鷹揚に笑った。

 日本で民主化運動に専念していたある中国人留学生は、その話を聞いて溜息まじりに首を振ったが、直後にこう言った。

「新政府ができたら、僕は駐日中国大使になりたいです」

 絵に描いた餅である。他力本願で夢想する話に、いったいどう反応せよと言うのだろうか。

 その一方、27年間にわたって地道に活動してきた亡命者も存在する。天安門事件当時のビラやメモ、写真や録音テープなどの一次資料から、世界中で配信された新聞、動画、雑誌記事、図書などを収集して分類し、インターネット上で「天安門事件図書館」を開設した。資料は40万点にものぼる膨大な量に膨れ上がった。いつか、だれかが、天安門事件の実態を分析し、再評価することにつながると信じているからだ。

魯迅は100年前、辛亥革命に失望した

 振り返れば、孫文の辛亥革命に失望したのは作家の魯迅だった。

 100年以上も前の話だが、封建的な清朝政府こそ中国の諸悪の根源だから、それを倒せば立派な国家ができるにちがいないと、だれもが期待した。だが、1911年に辛亥革命が成功してみれば、闘争と略奪の区別もなく、革命と反革命の区別もなく、ただ混乱の極みがあるばかりだった。魯迅は怒りのあまり『小雑感』として皮肉な一文をつづった。

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