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中英関係

習近平主席訪英の思惑――「一帯一路」の終点

2015年10月19日(月)15時05分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 AIIBは人民元の国際化を狙ってはいいるが、一帯一路構想により、アメリカがアジア回帰して対中包囲網を形成することと、世界に「民主」を輸出するアメリカの価値観外交による対中包囲網形成を阻止することにある。

 10月7日付の本コラム「TPPに「実需」戦略で対抗する中国」に書いたように、習近平政権としてはアジアの「実需」に重点を置きながら、一方では一帯一路の終点を「西の果て」のイギリスに置いて、アメリカと区切っているのである。

 同コラムに書いたように、中国は「普遍的価値観」などを共有(強要?)するファクターのある経済連合体には加盟しない。二国間の自由貿易協定(FTA)に近い形ならば、喜んで提携する。
イギリスはたしかに「人権の尊重」を求めて中国を批難した過去があるし、特にチャールズ皇太子はダライ・ラマ14世と会うことを批難する中国を、心の中では嫌っているにちがいない。そのために、今般の習近平訪英では、自宅に招きはするものの、エリザベス女王がバッキンガム宮殿で主宰する晩餐会には出ないという。「せめてもの抵抗」を示しているのだろう。

 そのチャールズ皇太子とて、「王室として法王に共鳴している」という要素はあっても、アメリカのように「民主主義を輸出して、普遍的価値観で中国を包囲する」といったようなことは要求しない。現にキャメロン首相はCCTVのために、あれだけ中国をほめちぎっているし、エリザベス女王も、「やむを得ず」であるかもしれないが、最高級の国賓待遇を習近平国家主席に与えている。王室と異なる動きを政権がすることもあれば、王室の一部が抵抗しても女王の名義が冠に着いていれば国家間として動ける。

 キャメロン首相がCCTVの取材で「アメリカと衝突を起こしはしない」とわざわざ言ったのも、ある意味の米英間の「微妙な亀裂」が懸念されているからだろう。中国にとって、束になって「普遍的価値観」という価値観外交で中国を取り囲もうとするアメリカよりも、イギリスの方がずっとありがたいのである。

 だからこそイギリスを一帯一路の終点として、フォーカスを絞ったのだ。

 こうすれば、中国は西へ向けた地球儀の半分以上は制覇できる。

 今年9月9日にはイギリスの海運業界の「ロンドン海事サービス協会」は中国の関係企業と協定を結んだ。同協会の責任者は「海のシルクロードは、海運の国であったイギリスにとっては非常に重要な構想だ」と「一帯一路」を高く評価している。

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