最新記事

日本外交

ジョージアと呼ばれたいグルジアの気まぐれ

要衝をにらむ地球儀外交を振り回すのは日本の官僚主義か外国のご都合主義か

2014年10月31日(金)12時43分
河東哲夫(元外交官・外交アナリスト)

難問 マルグベラシビリ大統領(左)の要請に応えるには多くの法改正が必要 Toshifumi Kitamura-Pool-Reuters

 先週、グルジアのマルグベラシビリ大統領が来日した際、安倍首相は日本政府がグルジアを「ジョージア」に改称することに応じる意向を示したという。

 名は体を表す。「グルジア」という言葉はロシア語に由来するので、ソ連から独立した後の95年、自らジョージアと名乗った。グルジア語では「サカルトベロ」と言うのだが、あえて英語名を名乗ることで、国際社会の主流に仲間入りしたかったのだろう。これまでロシアや中国と同じくこの国をグルジアと呼んできた日本が今になって改称に応ずるというからには何か深い訳がある? と思うのが人情だ。だが日本側の事情はわりと散文的なものだろう。

 相手が国名を変えたいならば、日本もすんなり応じればいいようなものだが、そう簡単な話ではない。「在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律」など、グルジアという国名が出てくる法律を全部改正し、それに倣ってメディアも表記を統一するなど、手間が半端でない。なぜ変えなければならないのか、政府は内閣法制局に事細かに説明し、法改正を国会で通すために審議の時間も取らねばならない。法案が立て込んでいれば審議未了で終わってしまう。

 日本が専制国家ならば、首相の鶴の一声で法律や規則は簡単に変えられる。僕もロシアや中央アジアで勤務していたときは、これらの国の役人に散々言われた。「なんで、そんな簡単なことを日本はやってくれないのか。政治家が決めれば簡単にできるだろう。できないのは、政治家がうちを重視していないからだ」と。僕は、「いや日本は民主主義で、議会での審議が......」などと反論するのだが、すると相手から「そんなのは民主主義ではない。官僚主義だ」と言われ、突き詰めて考えると案外そうかも、と思ってしまったりもした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

UAE、イエメンから部隊撤収へ 分離派巡りサウジと

ビジネス

養命酒、非公開化巡る米KKRへの優先交渉権失効 筆

ビジネス

アングル:米株市場は「個人投資家の黄金時代」に、資

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック小幅続落、メタが高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中