最新記事

南シナ海

領有権拡大に突き進む中国の危険な火遊び

日本ばかりでなくマレーシアやフィリピンにも強引に領有権を主張し、米軍艦も蹴散らす中国の「度胸試し」戦略

2014年2月13日(木)13時11分
ベンジャミン・カールソン

覇権主義 中国は南シナ海の大半を実効支配しようとしている Guang Niu-Reuters

 周辺国を挑発しながら支配海域の拡大を狙う中国の「度胸試し」が過激さを増している。先週、マレーシアから80キロほどの位置にある南シナ海のジェームズ礁(中国名・曽母暗礁)で、あるセレモニーが行われた。中国海軍の艦艇3隻が、この海域の主権を宣言する「主権宣誓活動」を実施したのだ。

 中国は石油や天然ガスが豊富に眠る南シナ海の地図上に「九段線」と呼ばれる9本の線を引き、南シナ海の大半について領有権を主張している。ジェームズ礁も九段線の内側に位置するが、同じく領有権を主張してきたマレーシアは、近隣に海軍基地を建設して対抗する構えだ。

 ジェームズ礁での宣誓式は、中国が推し進める領有権拡大戦略の一端にすぎない。中国が日中対立の火種である尖閣諸島(中国名・釣魚島)を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定したのは昨年11月。中国はその後、偵察機によるこの空域の飛行を繰り返している。

 昨年12月には南シナ海の公海上で、中国海軍の艦船が米海軍の巡洋艦の航路を妨害。衝突を避けるため、米軍側は緊急回避行動を取らざるを得なかった。
 
 さらに先月、中国南端に位置する海南省が南シナ海の200万平方キロの海域で操業する「すべての外国人と外国漁船」に対し、中国当局の許可を得るよう義務付けた。ベトナムやフィリピンとの領有権争いが深刻化している海域も含まれており、近隣諸国は猛反発している。

 今のところ、こうした対立が軍事衝突に発展したり、中国が領有権を公式に握る事態には至っていない。とはいえ、挑発を繰り返して既成事実を積み重ねる中国の手腕は実に巧妙で、着実に成果を挙げている。

 その影響を受けるのは周辺諸国だけではない。南シナ海は国際貿易における重要な輸送ルートであり、中国の実効支配下に置かれれば影響は大きい。アメリカにとってはタイや韓国、日本、フィリピン、オーストラリアといった同盟国の軍事に関わる問題でもある。

 だが軍事衝突を避けるとすれば、アメリカの選択肢は限られている。特に日中の対立緩和に向けてできることは多くない。「日中両国がメンツを保ちながら引き下がるのは困難だ」と、日中関係に詳しい香港大学の張維良(チャン・ウエイリアン)は言う。その方法を見つけなければ、中国の危険な火遊びはエスカレートする一方だが。

[2014年2月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米韓制服組トップ、地域安保「複雑で不安定」 米長官

ワールド

マレーシア首相、1.42億ドルの磁石工場でレアアー

ワールド

インドネシア、9月輸出入が増加 ともに予想上回る

ワールド

インド製造業PMI、10月改定値は59.2に上昇 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中