最新記事

サイエンス

今度は中国のごみが宇宙を汚す

地球の周りを超高速で飛ぶ宇宙ごみ。米ロに加えて中国由来のごみが激増するなか宇宙飛行士が危険にさらされている

2013年10月18日(金)17時11分
ウィルソン・フォーンディック(米海軍少佐)

マナーが大事 このままだと中国が米ロを抜いて最大のデブリ発生国になる(長征2F号) China Daily-Reuters

 この秋のハリウッドの超大作『ゼロ・グラビティ』(日本公開12月13日)は、スペースシャトルが破壊されて2人の宇宙飛行士が宇宙に放り出される物語。この映画にはまったく新しいタイプの悪役が登場する。スペースデブリ(宇宙ごみ)だ。

 本物の宇宙飛行士にとって、これは単なる映画の中のストーリーではない。デブリは非常に危険で、飛行士の命取りになる恐れもある。

 既にNASA(米航空宇宙局)には、デブリの問題を担当する部局が設置されている。EUと国連も、デブリを減らすための決議の採択に向けて準備を進めている。

 NASAは宇宙ごみを2種類に分類している。天然の岩石や鉱物・金属で構成された流星物質(メテオロイド)と人工物質だ。人工のごみの大半は地球を回る軌道上にあるので、「軌道上デブリ」と呼ばれる。事故・故障により制御不能となった人工衛星や、衛星などの打ち上げに使われたロケット本体とその部品などだ。

 現在、米国防総省とNASAは、5センチという小さいサイズまでの軌道上デブリを追跡している。NASAの推定によれば、ビー玉より大きいデブリが50万個以上、大気圏の周りにある。そのうち2万個はソフトボールより大きい。これらのデブリは時速約2万8000キロの猛スピードで飛んでいるため、ちっぽけなものでも人工衛星や宇宙船を破壊しかねない。

ごみは衝突して増える

 アメリカやロシアの科学者は、既に70年代から軌道上デブリの急増に危機感を抱いていた。デブリ同士が衝突する危険性を研究したのが、NASAのドナルド・ケスラーだった。彼は、特に高度約1400キロ以下の地球低軌道(LEO)上でデブリが増加すると予測し、互いが衝突する危険性を指摘した。

 後に「ケスラー・シンドローム」と呼ばれるこのモデルでは、デブリの空間密度が高くなり、互いが衝突することでデブリはさらに増えていく。中には地表に落下するものもあるが、大半は軌道を回り続け、「デブリ帯」と呼ぶべきものが発生し、宇宙旅行もできなくなると、ケスラーは考えた。

 LEOはデブリの密度が最も高い軌道だ。その数は04〜09年に2倍以上に増えている。この軌道が使われるのは、気象観測や偵察、通信などの目的に合っているためだ。

 大半の人工衛星は、LEOの中でも高度600〜900キロの太陽同期軌道に集中している。人工衛星の衝突が起こる頻度が最も高いのも、この軌道上だ。

 国連の宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)の10年の報告書によると、ここで発生した最初の衝突事故は、09年2月に起きたアメリカの通信衛星イリジウム33号と、機能を停止していたロシアの偵察衛星コスモス2251号の衝突だった。この事故だけで2200個ものデブリが発生したとされる。

 新たな宇宙大国の出現も大きな問題だ。70年に初めて人工衛星打ち上げに成功した中国は、03年には有人飛行を成功させた。現在は月探査機の計画を進めているし、15年頃には宇宙ステーション実験機「天宮2号」の打ち上げも予定されている。

 中国の台頭によって宇宙の安全がさらに損なわれる恐れがある。欧州宇宙機関(ESA)は、デブリを発生させた国別に分類している。今までデブリを最も多くまき散らしたのはロシアとアメリカだが、今世紀に入って中国のデブリが急増している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

首相と日銀総裁会談、植田氏「物価2%に着地するよう

ビジネス

日経平均は3日続落、リスクオフで1620円安 今年

ワールド

訪日客17%増の389万人、10月の最多を大幅更新

ビジネス

クレディ・アグリコル、28年の純利益目標設定 市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中