最新記事

エジプト

キリスト教徒の迫害が始まった

クリスチャン差別にイスラム政党がどう対応するかは真の民主化への試金石だ

2012年2月17日(金)16時15分
エリン・カニングハム

少数派 信教の自由を訴えるコプト教徒 Reuters

 エジプト第2の都市アレクサンドリアのある村で気がかりな事件が起きた。キリスト教の一派、コプト教徒の8家族が自宅を追われ、彼らの家や土地が売りに出されたのだ。コプト教徒は、国内人口の約1割を占める宗教少数派だ。

 イスラム教徒が多数を占める世界の国々で今、少数派のキリスト教徒が暴力的な迫害を受ける事件が相次いでいる。エジプトもその1つだ。

 アレキサンドリアの村ではここ数週間ほど、あるコプト教徒男性がイスラム教徒女性を誘惑し、恋愛関係になっているという噂が広まり、宗教間の緊張が高まっていた。先月末には、数百人のイスラム教徒住民が男性の自宅や彼が経営する店を襲い、放火する事件が起きた。

 2月1日に地元で開かれた調停会議の結果、彼らの安全を保証できないという理由で、コプト教徒の8家族が自宅を退去させられた。人権団体はこれを「集団処罰」と呼んで非難している。

 エジプトでは先頃、ムバラク政権崩壊後初となる人民議会が招集された。イスラム系政党が多数派を占めるその議会が、宗教絡みの暴力行為をどう解決するか――アレクサンドリアでの出来事が最初の試金石となる。

ムバラク政権崩壊が引き金に

 イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」傘下の自由公正党に所属し、人民議会の議長を務めるモハメド・サアド・アルカタトニは当初、コプト教徒の立ち退き問題を議論すべきだという議員たちの要請を拒否。しかし後に、議会の人権委員会に問題解決を委ねた。

 自由公正党のメンバーは地元で行われた調停会議に出席し、コプト教徒の退去に賛成したと言われている。このため、迫害を受ける宗教少数派にムスリム同胞団はもっと心を寄せるべきだ、という人権活動家の批判がさらに強まった。

 昨年のムバラク政権崩壊で法と秩序が乱れてから、イスラム教徒がコプト教徒に向ける敵意は増大している。対立の原因はたいてい両教徒間の恋愛や改宗問題、違法な教会建設などだ。

 民主化革命以降に起きたコプト教徒襲撃事件には、以下のようなものがある。

■2011年3月4日、ナイル川沿いのヘルワンでコプト教会が放火され、破壊された。

■5月7日、首都カイロの貧困地区インババに多くのイスラム教徒が押し寄せ、コプト教会に火を付けた。この衝突で少なくとも12人が死亡した。

■9月30日、南部アスワンでコプト教会が放火された。

■10月9日、「信教の自由」などを求め、国営テレビ前で抗議デモを行っていたコプト教徒と、イスラム教徒や軍治安部隊が衝突。20人以上のコプト教徒が死亡した。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中