最新記事

ドイツ

メルケル政権に「フクシマ」の大逆風

原発4基が稼動するバーデン・ビュルテンベルク州の議会選挙で、原発廃止を訴える野党・緑の党が大躍進。福島原発事故を機に広がる「メルケル離れ」

2011年3月29日(火)18時59分

想定外 自ら率いるCDUの票田で思わぬ大敗を喫したメルケル Fabrizio Bensch-Reuters

 ドイツ南部バーデン・ビュルテンベルクで3月27日に行われた州議会選挙で、アンゲラ・メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と自由民主党(FDP)の連立野党が反原発を掲げる環境政党の緑の党に敗北した。

 現時点での開票結果によると、中道右派のCDUの得票率は39.0%、原発廃止を求める環境政党の緑の党が24.2%を獲得して第2党に躍進。緑の党は第3党の中道左派の社会民主党(SPD)との左派連立を表明しているため、バーデン・ビュルテンベルク州首相の座が野党連合に渡るのは確実とみられている。CDUが同州の首相ポストを明け渡すのは、実に58年ぶりのことだ。

 CDUの最大の敗因は、日本の原発事故だ。今も原発4基が稼働中のバーデン・ビュルテンベルクでは、事故を機に原発反対の感情が一気に噴出した。原発廃止を党是に掲げる緑の党は、この4基の即時停止を求めている。

 ドイツでは、数十年前から原発は激しい論争の種だった。09年に発足したメルケルの中道右派連立政権は、それまでの脱原発路線から原発推進へと舵を切り、昨年には2022年までにすべての原発を廃止するとした2000年制定の法律を白紙に戻した。しかし国民の間では、原発廃止を求める声が圧倒的に多かった。今回の選挙の前日には、ドイツの4都市で原発反対の大規模なデモが行われ、およそ25万人が参加した。


敗北が市場にもたらす影響

 ロイター通信によると、メルケルに近い立場にあるノベルト・レトゲン環境相は28日、ドイツは予定を前倒しして原発を廃止すべきだと発言。自動車産業や工業の大部分が集まるバーデン・ビュルテンベルクでの敗北は、国民が早急な原発廃止を求めている証拠だと述べた。

「私たちは、原発を早い時期に廃止できることを今すぐ国民に示す必要がある。再生可能エネルギーに転換してまかなえるということも」とレトゲンは語った。

 CDUにとって、バーデン・ビュルテンベルクは1953年以来ずっと守り通した手堅い牙城だった。「(今回の敗北は)バーデン・ビュルテンベルクの歴史に深い傷跡を残した」とメルケルは記者会見で述べた。「敗北によるダメージは、1日で消えるものではない。長い道のりにはなるが、立ち直るために歩き続ける必要がある」

 一方で、市場への影響も懸念されている。今回の選挙結果を受けて、メルケルが進めるユーロ救済策が議会に阻止されるようなことにはならないだろうが、金融市場には不安が広がりかねないと指摘するアナリストもいる。ユーロ救済策の議会投票は9月まで行われないため、その間に市場が神経質になることは十分あり得るという。

(GlobalPost.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中