最新記事

メディア

英BBCが今度はメキシコ人差別で大笑い

二重被爆者を「世界一運が悪い男」と紹介して謝ったばかりなのに、今度はメキシコ車をネタに差別的ジョークが炸裂

2011年2月2日(水)17時01分
ヨアン・グリロ

笑えない冗談 BBCの番組『トップギア』でメキシコ人をネタにした司会者たち YOUTUBE

 メキシコ在住のイギリス人というのは、ある意味人気者だ。出身はどこかと聞かれて、アメリカじゃないと分かると喜んでもらえる。メキシコ人にとってアメリカは、国境付近でメキシコからの移民に目を光らせている隣国。対するイギリスは、教養があってフレンドリーで、愛すべきビートルズを生んだ遠くの島国だからだ。

 だが、それも先週までのことだった。

 1月30日放送のBBCの人気自動車バラエティ番組『トップギア』で司会者たちがメキシコ人に差別的な発言をしたため、メキシコにおけるイギリスのイメージは突然、アメリカよりずっと「差別的な国」になってしまった。

 番組の司会者たちから問題の発言が飛び出したのは、画面にメキシコ製のスポーツカーの写真が映しだされたとき。司会者同士でジョークを飛ばし合って会場の笑いを誘った後、司会者の1人、リチャード・ハモンドが暴言を吐き始めた。

「メキシコ製の車を欲しいなんて奴がいるわけない。車ってのは国民性を反映するもんだろ?」とハモンドは言い出した。「メキシコ製の車ってのは怠け者で、無気力で、でっかい屁をする(ガスを大量に出す)うえにデブで(重量が重過ぎる)、コート代わりに穴の開いたブランケット(ポンチョのこと)にくるまって、サボテンを見ながらフェンスに寄りかかって眠ってると相場が決まっている」

 そしてさらなる一撃を加えるように、もう1人の司会者ジェレミー・クラークソンがメキシコ大使を中傷し始めた。「こんなことを言ってても批判なんて来ないさ。メキシコ大使は今ごろこんな感じでリモコン片手にくつろいでいるだろうからな」と、クラークソンは椅子にドッサリもたれていびきをかく真似をした。

 だが、クラークソンは間違っていた。駐英メキシコ大使のエドゥアルド・メディナ・モラは黙っているどころか、BBCに謝罪を求める抗議文書を送りつけたのだから。

「この番組の司会者たちはメキシコの国民と文化、さらに彼らの代表たる駐英メキシコ大使に対して極めて挑発的で品がなく、許しがたい侮辱をした」と、モラは書いた。「取るに足らないからかい文句はこの番組の魅力ではあるにしても、外国人差別を正当化するユーモアなど存在しない。これは好みの違いなどではなく基本的なルールの問題だ」

実は「無知」だったイギリス人

 この一件は、メキシコ大使が文書を送ってわずか数時間の間にインターネット上で広まった。もちろん、海を越えてメキシコにも。

 メキシコのニュースサイトがトップページで報じると、怒りのコメントが殺到した。日刊紙ウニベルサルのサイトには、ムーディーと名乗る人物が「彼らは教養がなくて無知だ。もちろん、この国の美しさなど見たことないのだろう」と書き込んだ。「世界中からやって来た人たちが共存しているイギリスで、テレビ出演者がヒトラーみたいに振る舞うなんてなんとも嘆かわしい」

 ニュースは英語メディアによって瞬く間に世界中に広まり、あちこちで議論を巻き起こした。メキシコのイギリス車ディーラーには、番組放送後たくさんの客から来店をキャンセルする連絡が入った。

『トップギア』はBBCの番組の中でも高視聴率を誇り、海外でも大人気。その人気を支えるカギは、司会者たちの際どいコメントだ。BBCはメキシコ大使のモラに直接返事を出すとしているが、謝罪する可能性が高いだろう。クラークソンは09年にゴードン・ブラウン前英首相を「片目のスコットランド人のあほ」と呼んで謝罪した経験がある。

 イギリス人の鼻に付くユーモアは何も今に始まったことではない。今年のゴールデングローブ賞の授賞式で、プレゼンターを務めたイギリス人コメディアンのリッキー・ジャーベイスが出席した俳優たちをネタに辛辣なジョークを連発したのは、典型的な例だ。

 だが今回のジョークは一線を越えてしまったようだ。時代遅れでステレオタイプ的なメキシコ人像をネタにしたことで、トップギアの司会者たちは新しいイギリス人像を作りあげてしまった。無知で、お高くとまっていて、偏見に満ちたイギリス人像だ。

GlobalPost.com 特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反発、FRB独立性に懸念もエヌビディ

ビジネス

26年の政策枠組み見直し後も2%物価目標を維持=カ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、FRB理事解任巡り強弱感交

ワールド

ガザ病院攻撃、標的はハマスの監視カメラ イスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 7
    「ありがとう」は、なぜ便利な日本語なのか?...「言…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 4
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 5
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中