最新記事

企業

グーグルCEOは「いい人」すぎた?

アップルとのスマートフォン戦争を牽引してきたCEOエリック・シュミットの交代劇の真の要因

2011年1月24日(月)19時12分
ファーハッド・マンジョー

主役交代 10年間グーグルを率いたシュミット(右)に代わり、共同創業者のラリー・ページがCEOに就任 Mario Anzuoni-Reuters (left), Robert Galbraith-Reuters

 昨年3月の最後の金曜日、カリフォルニア州パロアルトのカフェで、アップルのスティーブ・ジョブズとグーグルのエリック・シュミットが小さなテーブルを挟んで話し込む姿が目撃された。

 その1年ほど前から、アップルとグーグルの仲が冷え込んでいたのは周知の事実。何とか溝を埋めようと両社のCEO(当時)がぎこちない努力をしている様子は、IT業界に衝撃を与えた。

 この一連のスクープ写真を掲載したテクノロジー情報ブログ「ギズモード」は、ボディランゲージの専門家に2人の姿勢を鑑定するよう依頼。その結果、2人とも居心地が悪そうだが、特に注目すべきはシュミットの仕草だという分析結果が出た。ジョブズに話しかける際、シュミットは上司に服従するかのように肩を丸めていた。これは犯罪者などが警官の前でよくみせる仕草でもあり、ジョブズを恐れている証だという。

 ボディランゲージの専門家でなくても、そう感じたかもしれない。シュミットはグーグルを世界一革新的な企業に育て上げた有能な経営者だが、派手なケンカは向いていないというのがもっぱらの評判。しかしグーグルはまさに今、スマートフォン市場でアップルと派手な戦いを繰り広げている。

 かつてアップルと争い市場を制したマイクロソフトのビル・ゲイツは、冷酷に徹することで数多くの争いを勝ち抜いてきた。彼は他社の発明を模倣し、自社の軍門に下らない企業を平気で握りつぶした。だが、シュミットにはそうした冷酷さはなく、ジョブズやゲイツとは違う「いい人」と評されてきた。

 昨年3月にニューヨーク・タイムズ紙がアップルとグーグルの亀裂を報じた際にも、ジョブズはコメントを出さなかったが、一方のシュミットは冷酷さや計算高さとは無縁の対応をした。彼は「スティーブ・ジョブズは世界一のCEOだと今も思っている。アップルとスティーブを心から尊敬している」と語った。

 そのジョブズの休職が伝えられたわずか3日後の1月20日、今度はシュミットがCEOを退任し、会長職に退くことが発表された。後任のCEOは共同創業者のラリー・ページ。10年間グーグルを引っ張ってきたシュミットの交代劇は、彼がいい人すぎたからなのだろうか。

スマートフォン戦争を越えた壮大なビジョン

 グーグルがIT業界で今の地位に上り詰めたのは、どの企業よりも優秀な頭脳を有していたからだ。同社のサーチエンジンは英知の結晶であって、冷酷な戦略の産物ではない。

 シュミットは、コンピュータの未来はモバイルにあり、携帯電話をはじめとする小型機器がネット接続(とグーグルへのアクセス)の主流となると信じていた。だとすれば、モバイルコンピューティング戦争でアップルに敗れれば、グーグルは厳しい立場に追いやられるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中