最新記事

軍事

中国海軍増強があおる東アジア軍拡

中国に対抗してシンガポール・インドネシア・オーストラリア・ベトナムが新たな艦艇を購入、日本は36年ぶりに潜水艦を増やす方針だ

2010年8月4日(水)12時25分
アラン・マスカレンハス

着々と戦力を強化する人民解放軍海軍(2月のパレード) Jason Lee-Reuters

 東アジアはこの夏、不快な瀬戸際政策の嵐に見舞われている。中国は近年、交易ルートの確保を目指して海軍力を強化してきた。最近は近隣諸国も対抗して軍備を増強しており、中国封じ込めの動きが新たな段階に突入しつつある。

 争いの主な舞台は南シナ海だ。中国、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムが資源の豊富な島々の領有権を主張。なかでも中国は一歩も譲らない構えだ。

 7月にベトナムの首都ハノイで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラムの閣僚会議で、クリントン米国務長官は中国の艦艇による外国船の航行妨害を批判、領有権問題の平和的な解決はアメリカの「国益」だと述べ、各国首脳を喜ばせた。これに対し中国の楊(ヤン)外相は、クリントン発言を中国への「攻撃」と決め付け、この問題を多国間で協議する案に猛反発した。

 折しも、日本海では米韓合同軍事演習が始まっていた。演習には、韓国哨戒艦沈没事件を受けて北朝鮮に米韓の結束を見せつける狙いがあった。だが艦艇20隻、航空機200機、兵力8000人が参加した過去最大規模の演習にいら立ったのは、中国だった。

 とはいえ、気分を害したのはお互いさまだ。中国は今年になって軍事演習を強化。4月には、中国海軍の艦艇10隻(うち潜水艦2隻)が日本のごく近海を無遠慮に通過したと日本当局は主張している。

■アメリカの影響力低下の現実

 この好戦的な態度に、「平和的台頭を主張する中国の真意をアジア太平洋諸国は疑わざる得ない」と、新米安全保障研究センターのエイブ・デンマークは言う。

 東アジアは海軍増強競争の真っただ中にある。日本は36年ぶりに海上自衛隊の潜水艦を増やす方針を固めた。シンガポール、インドネシア、オーストラリアも新たな艦艇を購入している。中国との「友好の年」を祝っているベトナムでさえ、キロ級潜水艦をロシアから購入。中国がインド洋に侵入することを警戒するインドとの防衛協力を強化しつつある。

 一方、アメリカはアジアの安定を保つ役割と「自国の影響力低下という現実」の折り合いをつける必要があると、アジア協会のチャールズ・アームストロングは言う。中国の周辺諸国も米軍の限界に気付き、遅まきながら「自己主張」を始めたということだろう。

[2010年8月11日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル戦時内閣、イラン攻撃巡る3度目閣議を17

ビジネス

英インフレ低下を示す力強い証拠を確認=ベイリー中銀

ビジネス

IMF経済見通し、24年世界成長率3.2% 中東情

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック続落、金利の道筋見
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 6

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 7

    訪中のショルツ独首相が語った「中国車への注文」

  • 8

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    「アイアンドーム」では足りなかった。イスラエルの…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    猫がニシキヘビに「食べられかけている」悪夢の光景.…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中