最新記事

アフガニスタン

米政府が育てた銃も撃てないど素人警察

2010年5月20日(木)16時08分
T・クリスチャン・ミラー(米調査報道機関プロパブリカ記者)、マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)、ロン・モロー(イスラマバード支局)

 実際、より多くの人員を訓練するために、訓練期間はその後6週間に短縮された。それでも、「今の状況下では、適切な訓練ができている」と、デービッド・ジョンソン国務次官補は主張する。

 ダインコープの広報担当ダグラス・エブナーによると、訓練生が持ち場についてからも引き続き「監視、指導、助言」を行うし、期間の短縮については「1日の訓練時間の延長で埋め合わせしている」という。エブナーはまた、ダインコープは訓練を請け負っているだけで訓練方針には口を出せないが、優秀な教官をそろえ、委託された業務は「きちんと果たしている」と言う。

 訓練期間が終われば、訓練生はほぼ全員卒業できる。射撃試験に不合格でも銃が渡され、任務に就く。誰かを不採用にできるのはアフガニスタン内務省だけで、そうしたケースはめったにない。

 国家建設に役立ちたいと思っている警官志願者も大勢いるが、「地元の人々からカネをゆすり取るような警官が多いのも事実だ」と、ダインコープの元教官トレーシー・ジーンソンは言う。「そういう連中がいても、われわれはクビにするよう助言できるだけで、クビにする権限はない」

監査で分かったずさんさ

 ダインコープの中間管理職だったある人物は、国務省と米軍に毎週提出していた多数の報告書を見せて、訓練プログラムは「機能していない」と言い切った。それらの報告書は、ほぼ例外なくアフガニスタン人の警官や警察署長の「腐敗」を問題にしている。

 国務省と国防総省の関係者によると、訓練プログラムの導入後、17万人が訓練を受けたが、そのうち今も任務に就いているのは約3万人だけだ。「定着率の低さは確かに問題だ」と、訓練プログラムを監督する国務省のスタッフ、スティーブ・クラフトも認める。

 警官の基本給と危険な任務に就く場合の特別手当は最近、政府軍の兵士並みに引き上げられた。しかし、それで問題が解決するかどうかは不明だ。「訓練センターを出てしまえば、本人がどうするかはわれわれには分からない。とどまるか辞めるか、神のみぞ知るだ」と、クラフトは言う。

 さらに気になるのは、米政府が負担した多額の予算がどう使われたかだ。国務省と国防総省が2月に発表したアフガニスタン警官訓練プログラムの監査報告は、さまざまな疑問点を挙げている。

 国務省は遅まきながら調査チームを送り込み、ある委託業務の費用を調べた。その結果、必要と思われない物品を法外に高く購入するなど、請求書に記載された金額のうち総額3億2200万ドルの使途に問題があることがわかった。しかも、請求書の半数に誤記や計算ミスがあった。

 それだけではない。国務省は「予算が合計で10億ドルを超える2件の委託業務を十分に監督しなかった」と、監査報告は指摘する。

 現地の監督官は、政府が所有する資産の使用を十分監督せず、委託契約書類をきちんと保管せず、「請求書と届いた物品を突き合わせる作業」を怠ることもあったというのだ。つまり、税金を使って支払いだけ済ませ、購入した物品が実際に届いたかどうかすら確認しなかったということだ。これに対し、ダインコープのエブナーは、「わが社は国務省との契約で、請求書のチェックを徹底している」と反論する。

 今回の監査で、国務省が現地に派遣する監督官が慢性的に不足していることも明らかになった。ダインコープに委託した総額17億ドルの訓練業務を監督する人員がたった3人だったこともある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、相互関税上乗せ分適用「8月1日から」 交渉期限

ビジネス

マクロスコープ:政府、少額貨物の消費免税廃止を検討

ワールド

ロシア外相、イラン核問題巡る紛争解決に向け支援再表

ビジネス

グーグルのAI要約、独立系出版社からEU独禁法の申
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 9
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 10
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中