最新記事

都市,上海,万博

新上海、情熱の源を追う

2010年4月28日(水)12時30分
サイモン・クレイグ

「上海に影響されて、みんなが変わっていく」と、建築家のキャッツは言う。「この街の変化はますます熱い注目を浴びている」

 上海のアーティストにとって最も重要な変化は、当局が知的・芸術的自由をより広く認めるようになったことだろう。

 文広局は2000年、北京のアーティスト艾未来(アイ・ウエイウエイ)の個展『不合作方式──ファック・オフ』を中止させた。世界各地の有名な建造物や政府の建物に向かって艾が中指を突き立てている写真があり、北京の故宮の前でも同じポーズを取っていたからだ。

 艾に言わせれば、この手の挑発的な芸術は、気むずかしい役人とは肌が合わない。だが00年以降は、当局によって禁止されたイベントは一つもないと、上海のアーティスト秦一峰(チン・イーフォン、43)は言う。

 上海の作家、棉棉(ミエン・ミエン、34)は、欲望と喪失を描いた小説で多くの中国人読者を魅了し、上海の映画監督、程裕蘇(チョン・ユィスー)の目にもとまった。その棉も、上海はゆとりが出てきたと語る。

 デビュー作『ラ・ラ・ラ』は深センの愛と音楽、ドラッグ、失望を描いた短編集だ。棉は95年に上海へ戻り、薬物依存症の更生プログラムを受けた。『ラ・ラ・ラ』は中国での出版社も決まったが、印刷所の外に出ることはなかった。

「政府はまだ、あのような本を受け入れられなかった」と、棉は振り返る。「私は問題児だから」

金と消費を愛する「美しいあばずれ」

 2冊目の『上海キャンディ』は00年に4カ月で6万部が売れた後、やはり発禁処分となった。それでも棉は、政府も以前ほど保守的でなくなったから、最新作『熊猫性』は無事に刊行されるだろうと期待している。大切なのはファンが自分の本を読めることだと、彼女は言う。

 もっとも、文化が解放されるほど、社会問題は増えるのかもしれない。上海性社会学専業委員会の夏は、10代の妊娠が増えている理由の一つに、大衆文化をあげる。年長の世代はセックスや薬物はタブーだと教えられてきたから、話をすることさえためらう。結果として、多くの子供が自分を守る方法を知らずにいる。

 上海の「性革命」は、同性愛者の立場も変えてきた。ただし安全なセックスの習慣がほとんどないため、エイズ蔓延のおそれがあると、性的マイノリティーのためのホットラインを運営する周丹は言う。

 上海が物質主義に走りすぎることを懸念する声もある。作家の棉は、上海をこう表現する──「金を愛する美しいあばずれ」。

 もちろん、当局にはありがたくないキャッチフレーズだ。彼らが強調したいのは、上海が「人種のるつぼ」だということ。多くの外国人と、全国から集まるさらに多くの中国人が出会い、目まぐるしく変わる文化を生み出すというわけだ。

 それこそ「芸術の源」だと、程は言う。「ニューヨークや東京、パリが文化の中心になっているのは、アーティストが独自の視点をつくり出しているからだ」

 中国の基準からみれば、上海にはすでに独自の視点がある。中国では北京と上海が、芸術と流行の拠点になろうと競い合っている。だが北京は政治色が濃く、政府の存在は絶対だ。

 一方の上海は国際色があり、より時流に敏感だ。アメリカの広告会社でリサーチディレクターを務めるエドワード・ベルによると、買い物をするとき、北京の人は品質と予算にこだわる傾向がある。上海の人は「もっと流行を考える」と、ベルは言う。

罪の意識なく消費を楽しめる

 欧米のブランドが、この市場を見逃す手はない。ジョルジオ・アルマーニ、サルバトーレ・フェラガモ、ルイ・ヴィトンは、相次いで上海に旗艦店をオープンした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中