最新記事

ドイツ

戦争を語れる「普通の国」へ

2009年12月3日(木)14時57分
シュテファン・タイル(ベルリン支局)

 政治家が認めようと認めまいと、かなり前からドイツは武力戦争に巻き込まれている。いかなる戦闘行為にも関与しないという厳しい制約付きで、ドイツ軍が初めてアフガニスタンに派遣されたのは01年。だがこの数カ月は、NATO軍や地元の治安部隊と共に戦闘に引きずり込まれている。

 昨年パキスタン西部のクエッタのタリバン司令部は、ゲリラ戦の範囲をクンドゥズとマザリシャリフ周辺まで広げると決定。以来、現地に駐留するドイツ軍が攻撃の標的になることが増えた。駐留開始からの死者は35人に上る。

 7月、ドイツ軍は第二次大戦以来となる反撃に出た。空挺部隊300人と機甲歩兵部隊200人がアフガニスタン軍900人と共に、クンドゥズ州西部のチャルダラで「イーグル作戦」を展開。タリバン勢力を後退させたのだ。

 ドイツ軍が戦闘部隊を目指す動きは、90年にドイツが東西統一を果たした後から始まっていた。当時はドイツが冷戦の鎖から完全に解放され、経済規模(当時は世界3位)に見合う役割を国際政治で果たすようになると思われていた。

警察より厳しい武器使用制限

 湾岸戦争は静観したが(派兵の代わりに70億ドルを米政府に提供した)、その後はカンボジアに医師を派遣し、バルカン半島の平和維持活動に非戦闘部隊を送るなど、国際的な軍事活動に関与するようになった。

 第二次大戦が終わって半世紀以上がたち、ドイツは再び「普通の国」になった──当時の首相ゲアハルト・シュレーダーはそう言って軍の国外派遣を正当化した。

 だが大半のドイツ人にとって、「戦争」という言葉はいまだに禁句で、「正義」と結び付けることは受け入れられない。今年のある世論調査では国民の半分以上が、国外の問題はドイツ軍の関与にかかわらず、政府が口を出すべきではないと考えている。

 背景の1つには、シュレーダー前政権が軍の役割を拡大したことを、大半のドイツ人が時期尚早でやり過ぎだったと感じていることがある。そしてアメリカがイラクで犯した過ちが、国際紛争に関与することへの嫌悪感を助長した。

 従って、国連とNATOに協力してアフガニスタンの治安を守りつつ、国民の平和主義を納得させるために、政府は軍が実戦に巻き込まれないように予防策を張り巡らせてきた。今年7月に国防省が交戦規定を変更するまでは、兵士の武器使用を国内の警察官より厳しく制限。そのせいで本来の使命であるアフガニスタンの治安維持さえままならなかった。

 当初、ドイツ兵は差し迫った危険から自分の身を守る場合しか武器を使えなかった。逃走する暴徒を追い掛けることもできず、敵が爆弾を準備していても、差し迫った危険がなければ阻止することさえ許されていなかった。違反すれば、ドイツ国内の民間法廷で訴追されることになっていた。

 規定の変更前は、兵士は英語、ダリ語、パシュトゥー語でそれぞれ2回ずつ大声で警告しなければならなかった。ドイツに帰国したある兵士は、この規定が部隊を命の危険にさらしていたと語る。

 彼の部隊では、間違えて使うことを恐れて自分の武器を壊す兵士がいた。危機的状況でどんな行動が許されるのか分からずに混乱する兵士もいた。「敵との戦闘より自国の規定のほうが怖かった」

反発恐れ戦死を事故死と報告

 ドイツ政界は国内で派兵に賛同を得られるように、アフガニスタンには2つの完全に異なる任務があるという筋書きをひねり出した。1つは、北部でドイツ軍が市民による復興を支援する「良い」任務。もう1つは、南部で米英軍が汚い戦争を遂行して市民の命をいたずらに奪う「悪い」任務だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米イラン協議、パキスタンの仲介正念場に サウジへの

ビジネス

短期インフレ期待上昇、ガソリン価格伸び見通し4年ぶ

ワールド

トランプ氏「今夜文明滅びる恐れ」、イラン交渉期限迫

ビジネス

米耐久財コア受注、2月は0.6%増 中東紛争で先行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 4
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 5
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 6
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 7
    【後編】BTS再始動、3年9カ月の沈黙を経て──変わる音…
  • 8
    5日間の寝たきりで髪が...ICUに入院した女性を襲っ…
  • 9
    「人間の本性」を見た裁判官が語った、自らの「毒親…
  • 10
    スパイス企業の新戦略...エスビー食品が挑む「食のア…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 8
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中