最新記事

米外交

オバマ演説が象徴するアメリカ外交の混沌

大統領が有終の美を飾るために必要なのは原則論だけでなく実効ある政策だ

2015年2月3日(火)15時59分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

世界は見ている 妻ミシェルへの投げキッスで演説を終えるオバマ Jonathan Ernst-Reuters

 先週、オバマ米大統領にとっては最後から2番目となる一般教書演説が行われた。4分の3もの時間が割かれたのは国民の関心が高く、争点のはっきりした内政問題。特に格差是正への取り組みをオバマは強調した。

 対照的に、外交問題の扱いは随分軽かった。無理もない。昨今の国際政治は混乱を極め、世界におけるアメリカの役割や影響力、国益の定義もはっきりしない。「アフガニスタンにおける戦闘任務は終わり」と言いながら、同国やイラクでの米軍駐留が続いていることや、その最終的な使命や目的については触れずじまいだった。

 冷戦終結後のアメリカ外交の原則についての説明はよくできていた。「情報に振り回された性急な判断」を慎み、「問題が発生してもすぐには」派兵せず、「軍事力を背景に外交努力を重ね」「他国との協調体制をテコにする」と言う。

 だが、オバマがアメリカの国力と外交力、結束力を総動員して対処したはずの紛争では、思わしい結果は出ていない。確かにアメリカは空爆を先導し、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)のジハーディスト(聖戦士)がイラクやシリアで勢力を拡大していくのを「食い止めつつある」。しかし、これらの国々について最終的に何を目標としているのかは見えない。

シリアでは敵の敵も敵?

 オバマはISISと戦う一方、同じくISISと戦うシリアのアサド政権とは対立している。「シリアの穏健な反体制派への支援」も表明しているが、経験の浅い反体制派兵士が殺戮されるのは傍観していた。そこには明確な戦略は存在せず、引き延ばし戦術があるだけだ。

「幅広い協調体制にはアラブ諸国も含む」とオバマは言うが、それも心もとない。アメリカと国益が著しく異なる国々もあり、足並みはそろわないのだから。

 さらに「大国の小国いじめは許さない」という原則から、ロシアの軍事介入に抵抗するウクライナへの支持を表明。欧米が一致団結して行っている制裁の効果もあってプーチン大統領は孤立し、ロシア経済は窮地に立たされているとした(実は原油安の影響が大きいのだが)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院、つなぎ予算案また否決 政府機関閉鎖3日目

ワールド

ロシア海軍艦艇、デンマーク海域で度重なる挑発 米「

ワールド

米イリノイ州の移民捜査局で抗議デモ、警察と衝突し数

ビジネス

ミランFRB理事「積極利下げでも景気悪化に対応余地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 3
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、Appleはなぜ「未来の素材」の使用をやめたのか?
  • 4
    MITの地球化学者の研究により「地球初の動物」が判明…
  • 5
    謎のドローン編隊がドイツの重要施設を偵察か──NATO…
  • 6
    「吐き気がする...」ニコラス・ケイジ主演、キリスト…
  • 7
    「テレビには映らない」大谷翔平――番記者だけが知る…
  • 8
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 9
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 10
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び…
  • 5
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 6
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 7
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中