最新記事

食生活

経済危機で肥満が増える訳

未来への不安と肥満の関係に目を付けた研究が注目されている

2013年4月18日(木)15時18分
トレバー・バターワース

別の要因 高圧的な肥満対策は逆効果かもしれない Matt Cardy/Getty Images

 高カロリー食品に不安や不機嫌を和らげる効果があることは、昔から知られている。サイコロジカル・サイエンス誌に最近発表された研究によると、経済的な不安を静めてくれる可能性もありそうだ。私たちは困難な時が来ると感じたら、高カロリー食品でエネルギーを蓄えようとするという。

 ある実験では、被験グループはつらい時期を暗示する「困窮」「忍耐」などの言葉に触れると、対照グループより高カロリー食品を摂取した。それらの言葉をポスターでさりげなく目にしただけでもそうなった。

 味や喜びとは関係がなかった。「人々は食べる楽しみではなく、腹持ちする食べ物を求めていることが明らかになった」と、論文の筆頭著者でマイアミ大学のジュリアーノ・ララン講師は言う。

 研究のきっかけは、ニューヨーク市が飲食店チェーンにカロリー表示を義務付けたこと。しかしその方法では高カロリー食品の摂取を減らすことはできないとラランは気付いた。「表示情報とは別の要素が問題の背景にあると、研究結果が教えてくれた」

「素晴らしい研究だ」と、アラバマ大学バーミングハム校の栄養肥満研究センターのデービッド・アリソン所長は言う。人間や動物は、将来満足に食べられないことを察知するとカロリーをため込む傾向があり、これを「エネルギー摂取の不確実性」という。アリソンに言わせると、ラランの報告はこの概念を検証する「次々と出てきている興味深い研究成果」の1つだ。

 もちろんそれほど単純な話ではない。アリソンが指摘するように、社会の下層にいるという感情も関係してくる。「貧しさは肥満につながるかもしれない。購買力がないからではなく、社会階層の下部にいると『エネルギー摂取の不確実性』を感じて大食いしたり、体の生理的変化があったりして太るのだ」

 貧しい者はダブルパンチを食らうことになる。先行き不安をしばしば感じる上、自分の無力さをいつも思わされている。

 ラランの研究結果が正しければ、スーパーサイズの清涼飲料水の販売禁止といった強制的な肥満防止対策は逆効果だろう。「エネルギー摂取の不確実性」という観点から考えれば、「自分には力があり、人生も食べる物も自分で選ぶことができる」と人々に思わせるほうが有効だと、アリソンは言う。

 運命の気まぐれや、権力を持った他人に翻弄されたりしない──そんな意識が新たな肥満対策になるだろうか。

[2013年3月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ米大統領、次期FRB議長にウォーシュ元理事

ワールド

シリア暫定政府、クルド勢力と停戦合意 統合プロセス

ビジネス

英住宅ローン承認件数、12月は24年6月以来の低水

ビジネス

ユーロ圏GDP、第4四半期は前期比0.3%増 予想
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵士供給に悩むロシアが行う「外道行為」の実態
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 6
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 7
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 10
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 8
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 9
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中