最新記事

戦争

帰還後に自殺する若き米兵の叫び

2012年8月7日(火)17時11分
アンソニー・スウォフォード(作家)

 なぜ若い元兵士の自殺がこんなに多いのか。

 92年、私は「彼ら」の1人になりかけた。海兵隊に4年いて、湾岸戦争のときはクウェートで戦闘に参加した。除隊して戦場での高揚感や強い連帯感が過去のものとなり、孤立感や孤独感にさいなまれて死にたくなる気持ちが、私には分かる。

 私は大学に入ったものの、いつも周囲に警戒の目を光らせていた。仕事は人と接する必要がほとんどない倉庫で、夕方からの勤務を選んだ。やがて作家になったが(やはり人と接する機会が少ない仕事だ)、トラウマのない生活が送れるようになるまでには20年近くかかった。

 退役軍人省と軍は、戦場で人を殺すことが兵士の心や社会性にダメージを与え、自殺の引き金になり得ることを認めたがらない。だがアフガニスタンとイラクからの帰還兵に自殺者が多く、それが大きな懸念事項であることは否定できない。

 少し前までは、軍での厳しい訓練や規律には自殺を防ぐ効果があると考えられていた。退役軍人省デンバー支部(コロラド州)で自殺問題を研究するピーター・グティエレズは、2回以上の戦地派遣とその間隔の短さが「自殺リスクを高めるとは言い切れないが、何らかの影響があることは否定できない」と言う。「軍事訓練にはもはや十分な自殺防止効果がないのかもしれない。ただしそれを裏付けるデータはない」

「証拠がない」は研究者や現場の人間の決まり文句だ。だが未熟な青年たちに人の殺し方を教えて何度か戦場に送り込めば、帰還するときには別人になっていてもおかしくない。彼らは武器や暴力を使って問題を解決することが100%許されると思うようになっている。

 軍の医療関係者の多くが口を閉ざすなか、率直に話してくれた医師が2人いた。1人はベトナム戦争時代から帰還兵を診てきたジョナサン・シェイ医師。シェイは、現代の兵士は戦場に2回以上送られることで、道徳観念にダメージを受けると言う。

無視される帰還兵の存在

 戦場で失敗をしたり、上官から適切な指示が与えられなかったりすると、兵士は戦場の強烈なストレスに対処するため、仲間への信頼や善悪の観念を捨てる。連続的な派遣でそれが繰り返されると、その心理状態は一種の癖になる。だから平和な生活に戻っても、異常に警戒心が強く、誰も信用しない。そして生きていくのがつらくなる。

 一方、スタンフォード大学ストレス保健センターのデービッド・スピーゲル医師は、政府のせいで国民が戦争の現実に対して無知になったと語る。「帰還した兵士たちは、自分が理解されていないと感じている」

 外国で戦死した兵士の棺は、デラウェア州のドーバー空軍基地経由で故郷に運ばれる。だがブッシュ政権は、基地に到着した棺の写真公開を禁じた。そうなると国民はこうした写真を目にする機会さえないから、戦死者や戦争について考えるきっかけを1つ失うことになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米10月求人件数、1.2万件増 経済の不透明感から

ワールド

スイス政府、米関税引き下げを誤公表 政府ウェブサイ

ビジネス

EXCLUSIVE-ECB、銀行資本要件の簡素化提

ワールド

米雇用統計とCPI、予定通り1月9日・13日発表へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中