最新記事

米軍事

アフガン戦争「機密文書」暴露の衝撃度

9万点を超えるアフガン戦争の機密報告書は「すでに知られている事実」を裏付けたに過ぎないが

2010年7月27日(火)18時18分
ジョン・バリー(ワシントン支局)

政治問題へ 米政府は文書を公表した「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジを非難している Andrew Winning-Reuters

 故ロナルド・レーガン元米大統領は、馬糞の山を見つめる少年をネタにした冗談を言うのが好きだった。「糞の中のどこかにポニーが埋まっているに違いない」と、希望的観測で語ったものだ。

 民間ウェブサイト「ウィキリークス」によって「山積み」されたアフガニスタンでの戦争に関する約9万2000に及ぶ機密文書と向き合う研究者たちは、同じように考えているかもしれない。米軍のアフガニスタンでの行動を6年間に渡って記録したこの文書は、本当に驚くべき事実を暴露しているのだろうか?

 一見したところ、あまりなさそうだ。04年1月から09年12月まで、アフガニスタンからの現場報告を寄せ集めたこの文書は、すでに世間が承知している状況を、悲痛なディテールをもって改めて知らしめている。つまり、アフガニスタンでの戦争は長く厳しい戦いであること、タリバンが勝利する方向に進んでいること、そして駐留米軍と多国籍軍が資金不足に悩んでおり、自国で感謝されていないと感じていること──。

 これらの文書で、驚愕するような新事実が浮き彫りになることはないだろう。最も物議をかもしている問題のひとつに、多国籍軍の攻撃による一般市民の犠牲者数がある。文書には、多国籍軍の作戦によって死傷した144件のケースの現地報告が含まれている。合計195人が死亡し、174人が負傷した。6年間に及ぶ報告書であることを考えると、少なく思える。

「高性能ミサイル保有」の真実味

 では、これらの数字は何を意味しているか。米軍の指揮官らは個別のケースについて異議を唱えてきたことはあるが、米軍とNATO軍がかなりの数の民間人を犠牲にしてきたことを否定したことはない。国連によると、08年だけで約2100人の市民が戦闘の犠牲になった。そのうち約700人は「政府側」の部隊に殺害されたという。09年には約2300人の市民が殺害され、そのうちの550人は「政府側」の部隊の手で殺された可能性がある。今回リークされた報告書と国連のデータを照らし合わせるまで、ウィキリークスの文書に含まれる144件のケースがすでに認識されている死傷者数に含まれているのか、それとも多国籍軍によって内密にされているケースかを判断するのは不可能だ。

 リーク文書で最も衝撃的と思われる主張は、タリバンが熱線追尾式の対空ミサイルを入手し、NATOがそれを隠していたことだ。タリバンがこのミサイルを獲得するという指摘は、05年秋の報告書に初めて登場する。当時、アフガニスタン南部のザブル州とカンダハール州の反政府勢力の司令官らが同ミサイルの一群を手に入れたと報告されたのだ。70年代、アメリカがイスラム聖戦士に提供したスティンガーミサイルがソ連軍のヘリコプターに猛威を振るったことは、軍事の世界では伝説になっている。

 だが報告書によると、多国籍軍の航空機が墜落したのは、07年5月にヘルマンド州で肩撃ち式ミサイルによってCH-47「チニーク」ヘリが撃墜された1件だけだったとみられる。撃墜されたチニークが低空でゆっくりと飛行していたことから、タリバンが使用する一般的な携行式ロケット弾の犠牲になった可能性も排除できない。文書によると、パイロットがミサイルとのいくつかのニアミスが報告されているが、さらなる被害は報告されていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ホリデー支出、パンデミック以降で最大の落ち込みか

ビジネス

再送中国サービスPMI、8月は53.0 15カ月ぶ

ワールド

豪GDP、第2四半期は約2年ぶり高い伸び 消費支出

ワールド

タイ与党、下院解散を要請 最大野党がライバル首相候
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中