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アフガン戦争「機密文書」暴露の衝撃度

2010年7月27日(火)18時18分
ジョン・バリー(ワシントン支局)

 つまり、証拠は乏しいといえる。仮にタリバンが熱線追尾式ミサイルを所有しているとすれば、タリバンの戦闘員などに甚大な被害を与えてきたプレデターやラプターといった無人戦闘機がなぜ撃墜されなかったか、説明がつかない(先週末には、24時間の間にパキスタン北西部で無人戦闘機による3度の攻撃が行われ、24人以上のタリバン戦闘員が死亡している)。

看過できないISIとタリバンの関係

 文書に衝撃的な報告がないとはいえ、アメリカで政治問題にならないわけではない。上院外交委員会の委員長であるジョン・ケリー上院議員はすぐさま、自身が所属する民主党がどう反応するかを把握するまで様子見をするという古典的な声明を発表した。ケリーは、この文書が「パキスタンとアフガニスタンに対するアメリカの政策の現実について深刻な疑問を提示している」とした上で、「(アメリカが)危険性を強調し、もっと早急に政策を軌道修正させるだろう」と語った。

 ここでケリーが何を言わんとしているかは、はっきりしない。彼はパキスタンとアフガニスタンを何度も訪問し、数多くの要人と話をしてきた。では、これらの文書が明らかにする「現実」とは一体何を指し、ケリーはどんな「軌道修正」を考えているのか。ケリーの広報担当室は、すべて質問を上院外交委員会にするよう言い、広報担当者はこの件についてケリーには話すことが何もないと答えた。

 この文書によって、ワシントンで改めて最も熱く議論される問題は、決して目新しいものではない──タリバンや関連組織と、パキスタンの関係はどんなものか。特に、パキスタンの情報機関である軍統合情報局(ISI)が過激派に指令を出したり支援したりしているのか、という点が注目されるだろう。

 ウィキリークスの文書によると、過激派へのISIの関与を指摘する報告が毎週のように寄せられていた。この手の報告の多くはゴシップに毛が生えた程度のものに過ぎないが、現実と合致するものもあり、多数の情報源と連携した莫大な量のISI関与の報告は、無視することはできない。

 報告は昨年12月が最後。バラク・オバマ大統領がアフガニスタンの新戦略を発表した時期だ。オバマの方針が上手くいくかどうかはまだ分からないが、今のところ明るいとは言えない。歴史家たちがアフガニスタンで「どこを間違ったのか」について書く時が来れば、この山のような書類は一次的な情報源になるだろう。

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