【密着ルポ】オープンAIのサム・アルトマンは、オッペンハイマーに匹敵する超人か? 密着して見えてきた、生成AI最前線に君臨する男の素顔と頭の中

THE REAL SAM ALTMAN

2024年2月2日(金)18時50分
エリザベス・ワイル(ニューヨーク・マガジン誌特集担当ライター)

「原爆の父」に自分を重ねて

22年11月30日、オープンAIはチャットGPTを公開した。この生成AIは2カ月で1億人のユーザーを集め、テック史上最大の新製品発表となった。その2週間前にメタ(旧フェイスブック)が生成AI「ギャラクティカ」を発表したが、虚実が区別できないことを理由に3日で公開を取りやめていた。

嘘をつき、でたらめの回答を生成する現象「ハルシネーション(幻覚)」を起こすのはチャットGPTも同じだ。それでもアルトマンはこれを長所と主張し、公開に踏み切った。世界は生成AIに慣れなければならない、共に判断を下していかなければならないと考えたのだ。

「時にモラルを超越できるかどうかが、経営者や製品の成功のカギとなる」と、オープンAI創業期の元同僚は語る。「技術的には、フェイスブックはそう面白くない。ならば、なぜザッカーバーグは成功できたのか。素早く動き、モラルに縛られずに製品を作り上げたからだ」

昨年5月、アルトマンは22カ国25都市を巡る世界行脚に出ると、テック界の新しいリーダーとして自分を売り込んだ。世界の指導者たちと会談し、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長と記念撮影した。優雅に立つフォンデアライエンの横でアルトマンはズボンの前ポケットをスマホで膨らませ、緑の瞳は疲労とストレスホルモンの影響でぎょろついていた。

帰国後の6月下旬から8月半ばにかけては、頻繁にX(旧ツイッター)に投稿した。彼を理解したいなら、ツイートはヒントの宝庫だ。

「今晩見るべき映画は『バービー』、それとも『オッペンハイマー』?」とアルトマンは問いかけ、アンケートを取った。17%対83%で『バービー』が敗れると、「了解。なら『オッペンハイマー』だ」と、投稿した。

そして翌朝「『オッペンハイマー』は、それを見た子供がこぞって物理学者になりたがるような映画だと期待していたのに、全然違った」と、失望をあらわにした。

アルトマンの言動に注意を払ってきた人々は、この反応に戸惑うだろう。彼は以前から原爆の生みの親ロバート・オッペンハイマーに、自分をなぞらえている。誕生日が一緒だと述べ、オッペンハイマーの発言を踏まえる形で「テクノロジーが生まれるのはそれが可能だからだ」とニューヨーク・タイムズ紙のケイド・メッツ記者に語ったこともある。

ならばクリストファー・ノーラン監督による伝記映画がオッペンハイマーを手放しで礼賛する内容でなくても、驚かなかったはずだ。

オッペンハイマーは原爆の開発計画を率いたことへの恥の意識や後悔と闘いながら、後半生を過ごした。初の原爆実験に立ち会った際はヒンドゥー教の聖典『バガバッド・ギーター(神の詩)』の一節「私は死となり、世界の破壊者となった」が頭をよぎったと、後に振り返った(この一節は映画に2度登場する)。

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