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STEM教育を単に「理系人材育成」と考えたら大間違いだ

2019年1月23日(水)16時15分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

StockRocket-iStock.

<AI時代を生き抜くのに必要なのは、プログラミングができることよりも、感性や直観力。STEMは理数系の学問の総称だが、実はこれらのスキルを培うのにも役立つ>

日本でいま関心が高まっている「STEM(ステム)教育」は、誤解されがちな概念かもしれない。

STEMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取った言葉で、いわゆる理数系の学問の総称だ。国を挙げてIT人材を育成し、イノベーションを興そうという21世紀型の教育モデルを指し、2000年代にアメリカで始まったと言われる。

このSTEM教育が注目を集めている理由には、他の学問分野よりも高い投資収益が見込まれる、という点も挙げられる。要するに、これらの分野に習熟していれば、(例えば人文系出身者と比べて)より良い収入を期待できる、ということだ。

だが、単に「数字や科学に強い子供を育てよう」「子供のうちからコンピュータを自在に操れるようにしよう」というのがSTEM教育だと考えたら、大間違いだ。

STEM教育の根底には、自発性や創造性、問題解決力といった能力を高めるという意図がある――そう述べるのは、日本初のSTEM教育スクールを主宰する中村一彰氏。今後10~20年で現在ある仕事の半数がAI(人工知能)に取って代わられるという推測まであるが、そんな社会に出ていく子供たちに、どんな知識やスキルを身につけさせればいいのか。親たちのそうした悩みに対し、中村氏が推奨するのがSTEM教育だ。

理系人材、IT人材に育てられるからではない。子供たちの「本当の賢さ」を引き出せるからだ。

AI時代に高めるべき能力は「広く深く」

中村氏は教師を志していたが、教育実習で画一的な集団形成教育に違和感を抱き、民間企業に就職した。そしてベンチャー企業を経て教育事業で起業し、公教育が担えない部分を民間教育が担うべきという信念のもと、日本各地を巡って「探求型の学習」と「STEM教育」にたどり着いたという。

2014年からSTEM教育スクール「ステモン」(「STEMをONする」で「ステモン」)を運営しており、探求型の学習スクール、次世代型の民間学童保育と合わせて、1000人以上の幼児、小学生と関わってきた。その中で見えてきた「AI時代を生き抜く力」の引き出し方をまとめたのが、著書『AI時代に輝く子ども――STEM教育を実践してわかったこと』(CCCメディアハウス)だ。

中村氏が「ステモン」で講師を募集すると、東京大学、東京工業大学をはじめ、慶應義塾大学、早稲田大学など、一流大学の理工系に在学する学生たちが集まってくるという。

その際、中村氏は面接で学生たちにこんな質問をする----「周りに絶対にこの人にはかなわないなというほど頭の良い友人はいる?」「その人とは何が違うの?」。すると、学生たちは異口同音に「思考の広さ深さが格段に違う」と答えるそうだ。

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