最新記事

ルポ特別養子縁組

TBS久保田智子が選択した「特別養子縁組」という幸せのカタチ

ONE AND ONLY FAMILY : A STORY OF ADOPTION

2020年12月25日(金)09時30分
小暮聡子(本誌記者)

yonedaNW_YSI_03.jpg

不妊治療を経て新生児を迎えた米田尚子(仮名) PHOTOGRAPH BY MAYUMI SUZUKI FOR NEWSWEEK JAPAN

特別養子縁組が可能となる養親の要件として、まず養親は婚姻関係にある夫婦でなければならず、よって事実婚や独身者、同性パートナーは不可となる。また、子供を委託された後の試験養育期間に家庭裁判所の審査を通るためには夫婦が同居していなければならないなど、制度上のハードルがある。

次に、民間団体は養親候補の要件として登録時に例えば45歳まで等、年齢制限を設けているところが多い。考慮事項として年収、雇用形態、健康状態、養親となった直後の共働きの可否などがあり、要件を全ては公表していないところもあれば、必ずしも全ての要件をクリアしていなくても柔軟に検討される場合もある。久保田は、ネット上で登録する時点で「ものすごくたくさんの個人情報をさらした」と言う。

「年収はどれくらいですか? 勤め先はどちらですか? 結婚したのは何歳の時でいま何年目ですか? あなたはどのような子供で、どのような環境で育ちましたか? どのように育てたいですか? 宗教は? 夫婦仲はどうですか?......とか、たくさん書くところがあった。台所とリビングと、子供部屋になる予定の部屋の写真も送った。もちろん、そんな個人情報をさらすのはすごく嫌なんだけど、ちゃんと育てられる環境かというのを見ているのだと思う」

厚労省が17年に発表した資料によれば、20の民間団体が斡旋した381件の特別養子縁組のうち、成立時の養親の年齢(夫婦のうち若いほう)は30代後半が27%、40代前半が39%、40代後半が15%だった。養親希望者の多くは、厳しい不妊治療の末に特別養子縁組という選択肢にたどり着くともいわれる。

同じく鈴木の仲介によって今年8月に新生児を受託した46歳同士の夫婦、米田一郎と尚子(いずれも仮名)も、そうした道のりを経た2人だ。「不妊治療の試練も、この子に出会うためだったのかもしれない」と語る尚子は、不妊治療に600万円ほど費やした後、46歳で特別養子縁組という選択をした。

9月半ば、夏の暑さが残る日の夕方に東京近郊の自宅を訪ねると、父と母になったばかりの米田夫妻は人なつっこい大きな愛犬と共に迎えてくれた。ベビーベッドの中では、小さな小さな女の子が気持ちよさそうに寝息を立てている。

29歳で結婚した2人は、理系の研究者として06年から13年までの8年間をアメリカで過ごした。38歳の時に現地で不妊治療をして授かった命が妊娠5カ月で死産に至るという経験をした後は、なかなか不妊治療を再開できなかった。42歳で体外受精を始め、それからは「仕事との調整に苦しみながら、採卵して移植して、というのをひたすら繰り返した」と、尚子は語る。

4年前、体外受精を始める際に「勝負は1年」と医者に言われた。「なので私たちも、取りあえず1回やってみようと。でもその後は、今回は駄目でも、次にやったらできるんじゃない?って......どんどんやめられなくなっていった」

2人と1匹で生きていくのも幸せかもしれない。今年6月に最後の移植が成功しなかったときにはそうも思ったが、「自分が死ぬ間際に後悔したくないという意識が消えなかった。ああやっぱり子供を育ててみたかったと、思うような気がした」と、尚子は振り返る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

6月米製造業生産0.1%上昇、高関税措置の影響続く

ワールド

フーシ派向けイラン製武器押収、イエメンの対抗勢力=

ワールド

トランプ氏、FRB議長解任の「計画なし」 解任の公

ワールド

イラン最高指導者、新たな攻撃に「対応する用意ある」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏にも送電開始「驚きの発電法」とは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 5
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 6
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 9
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 10
    「死ぬほど怖かった...」高齢母の「大きな叫び声」を…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中