最新記事

日本人が知らない 休み方・休ませ方

休暇「2週間×年4回」+夏休み2カ月はなぜ可能なのか?

A COUNTRY OF VACATION

2020年4月14日(火)18時00分
高崎順子(フランス在住ジャーナリスト)

パリのカフェに観光客が戻るのはいつ? MAZIARZ/SHUTTERSTOCK

<コロナ危機の在宅勤務が突き付ける「働く」と「休む」の境界線。休めない病の日本人には信じられない、有休取得率100%を実現するフランス流「発想の逆転」とは? 本誌「日本人が知らない 休み方・休ませ方」特集より>

フランス人は常にバカンス(長期休暇)の話をしている......とよく言われるが、実際に住んでみると、これはそのまま真実だ。この国の大多数の国民の生活は、バカンス計画を中心に回っている。

なぜそうなるのかは、カレンダーを眺めると分かる。フランスは義務教育が3歳入園の公立幼稚園(保育学校)から始まるが、そこから大学まで教育機関全てが全国共通の「学校カレンダー」に従って授業を行う。9月に始まり7月初めに終わる年度のカレンダーには、2週間の季節休暇が約2カ月に1度、計4回ある。つまり1回の休暇が終わると、1カ月半後には次の休暇がやって来るのだ。加えて夏休みは約2カ月もある。
20200421issue_cover200.jpg
子供のいる世帯はそれに合わせて有給休暇を取り、バカンスの予定を組む。保護者が休めないときは、学校のない子供のために学童保育の予約を入れる。それらもろもろの手配や予算繰りで、頭の中には常に「次のバカンス」がある。

子供のいない家庭はというと、労働者には国の法律で年間30日間の有給休暇権があり(1カ月働くと2.5日の有給休暇が発生する)、雇用主は取得申請を拒否できない。権利は漏れなく使い倒すフランスにおいて、有休取得率はほぼ100%だ。

とはいえ、休暇は同僚同士が時期をずらして取得しなければならないので、子供がいない世帯でも「学校カレンダー」を意識せざるを得なくなる。そうして、みんなが文字どおり「常にバカンスの話をしている」という事態になるわけだ。

彼らにとってバカンスの目的は、日常を忘れ、疲れを癒やすこと。だから、プランの第一候補はまず旅行だ。国内、国外を問わず、実家に友達の家やホテルに貸し家、キャンピングにと、日常を離れるために移動しまくる。日本のゴールデンウイークやお盆休みの大移動が、年に5回あると思ってもらうといい。バカンス予算を捻出できない世帯の子供向けには、社会福祉政策の一環として、多くの自治体や慈善団体が学童キャンプを主催している。

magSR20200414france-2.jpg

国民は全国共通の「学校カレンダー」に従ってバカンスを取る ULKAPOPKOVA/ISTOCK

バカンスは「労働者の権利」

バカンスはフランスの人々の大きな労働モチベーションで、それをやり繰りするために日々節約と貯金をする。夏のバカンス予算の世帯平均額は、移動、宿泊、滞在先のレジャー代金で2201ユーロ(約26万円/仏市場調査会社イプソスの2019年調査)というデータがあるが、出費はそれだけではない。

旅先では現地の名物料理を楽しみたいし、遅い日暮れのお供にはビールやワインも欠かせない。バカンス中に読む本、着る服、家族や友人へ持参するプレゼント、旅の思い出に持ち帰るお土産......財布のひもは緩む一方だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、人質のイスラエル軍兵士の遺体を返還へ ガザ

ワールド

中国外相、EUは「ライバルでなくパートナー」 自由

ワールド

プーチン氏、G20サミット代表団長にオレシキン副補

ワールド

中ロ、一方的制裁への共同対応表明 習主席がロ首相と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 6
    高市首相に注がれる冷たい視線...昔ながらのタカ派で…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 10
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中