最新記事

映画

演技は悪くないが、今なぜコレ?──「置いてけぼり感」だけが残る迷走映画の是非

Stylish but Tepid

2022年11月16日(水)12時02分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
フローレンス・ピュー  ハリー・スタイルズ

砂漠の中に開発された新興住宅地でアリスとジャックは夢のような新婚生活を送っていたが…… ©2022 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

<オリビア・ワイルドの監督2作目『ドント・ウォーリー・ダーリン』はSFスリラーとしては面白い。しかし、テーマの焼き直し、かつジェンダー政治に全く居場所なし。本記事2ページ目以降は「ネタバレ禁止」>

俳優オリビア・ワイルドの監督2作目となる『ドント・ウォーリー・ダーリン』は、9月にベネチア映画祭で初上映される前から、舞台裏のゴシップばかりが目立っていた。

長年の婚約者(と子供2人)のいたワイルドが、主演の(そして10歳年下の)ハリー・スタイルズと付き合い始めたこと。もともと主演する予定だったシャイア・ラブーフの降板理由をめぐる説明の食い違い。そしてもう1人の主演フローレンス・ピューとワイルドの不仲説......。

それでも作品の出来がよければ、そんなスキャンダルも簡単に忘れ去られただろう。ところが、『ドント・ウォーリー・ダーリン』は、スタイリッシュだが、少なくとも『ステップフォード・ワイフ』(1975年)以来、何度も映画化されてきたイメージとテーマの焼き直しにすぎない。

一見したところ幸せいっぱいだが、抑圧的な服従を求める郊外の結婚生活であり、アメリカの消費主義の明るい仮面に隠された道徳的腐敗、そして女性たち(特に満ち足りた主婦を演じる女性)の心と魂をむしばむ性差別だ。

この手の映画の伝統を踏襲して、『ドント・ウォーリー・ダーリン』も、砂漠のど真ん中に開発された新興住宅地「ビクトリー」を舞台に展開される。住民は新婚夫婦ばかりで(子供がいる家庭もいくつかある)、どこもかしこもパステルカラーのひどく人工的なオアシスだ。

男たちは皆、町外れの極秘施設で「ビクトリー・プロジェクト」に従事している。女たちは毎日、料理や掃除やおしゃれをして夫の帰宅を待つ。インテリアもファッションも人間関係も、50年代のドラマから抜け出してきたかのような世界だが、どこか不穏な空気が漂っている。

カリスマ的なリーダーのフランク(クリス・パイン)は、カルト教団の教祖のように町を動かしていて、巧みなスピーチで住民をコントロールする一方で、ルールを逸脱しそうな住民(特に女性)に厳しく目を光らせている。

フランクの目下の懸念の1つは、アリス・チェンバーズ(ピュー)の奇妙な振る舞いだ。アリスはまだ夫ジャック(スタイルズ)との間に子供がおらず、熱々の新婚生活を満喫していたが、この絵に描いたような楽園は何かがおかしいと感じ始めていた。

俳優陣の演技は悪くない

ある朝、アリスが夫の朝食を用意しようと卵を割ると、どれも中身が空っぽの殻ばかり。トロリーで町外れに行ったとき、確かに飛行機が墜落するのを見たのに、みんな気のせいだと言う。友人のマーガレット(キキ・レイン)が自殺を図り、さらに行方不明になったことを訴えても、誰も相手にしてくれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中