最新記事

BOOKS

ディズニーキャストが明かす、裏方だけが知っている話

2022年2月25日(金)10時45分
印南敦史(作家、書評家)
『ディズニーキャストざわざわ日記』

Newsweek Japan

<「夢の国」の「心温まるエピソード」に違和感を抱いていた清掃スタッフ経験者が、大胆な一冊を出版した>

よくもまあ、こういう大胆な本を書けたものだな――。

それが、『ディズニーキャストざわざわ日記――"夢の国"にも☓☓☓☓ご指示のとおり掃除します』(笠原一郎・著、フォレスト出版)を手に取った時点での、偽らざる第一印象だった。

なぜならタイトルからも想像がつくとおり、これは東京ディズニーランドの清掃業務に携わってきた人物が、その仕事の真実を明らかにした体験記だからである。

ディズニーランドといえば、「夢の国」としての価値を守るべく"裏側"の話など決して明かされないことで有名だ。そもそも、"裏側"などないというスタンスを貫いていると言ってもいい。

何があっても「夢の国だから」と押し通す姿勢は確かに見事で、だからこそあのような在り方が維持されているのだろうと私も感じていた。

だが本書では、カストーディアルキャスト(主にパークの清掃業務を担当するキャスト)としての視点を軸に、これまで明かされることのなかった事柄が赤裸々につづられているのである。

それはある意味で"夢の崩壊"を意味するのかもしれないが、著者は数ある他のディズニー本に書かれている「心温まるエピソード」のたぐいに違和感を抱いてきたというのだ。

キャストも人間である以上、非常識なゲスト(来園者)に怒りを覚えることもあるはずだ。しかし、「心温まるエピソード」ばかりの本には「ありのまま」の姿が描かれていない。ある意味でそれは当然のことでもあるのだが、働く側からすると、納得がいかない部分もあったのだろう。


 ある本の巻末に、
「本書は筆者自らの経験および取材による実話に基づいて創作された物語であり、実在の人物・団体とは関係がありません」
 と小さな字で書いてあるのを見つけた。
 創作された物語ならばこれは小説であって、もうなんでもありだ。
 私が本書をつづろうと思ったのは、これらのディズニー本に対する違和感が一因だ。
 本書は、そうした模範回答的なディズニーランド像に対する現場からの実態報告でもある。そして、本書にあるのは決して「創作された物語」などではなく、すべて私が実際に体験したことである。(「まえがき――ディズニーランド、「ありのまま」の姿」より)

つまり、批判や中傷をすることが目的ではない。実際に、現場で見たまま、感じたままを記しただけだ。また読み進めてみれば、その根底に東京ディズニーランドへの深い理解、一緒に働く人たちへの共感が満ちていることが分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中