最新記事

BOOKS

ディズニーキャストが明かす、裏方だけが知っている話

2022年2月25日(金)10時45分
印南敦史(作家、書評家)

キャストは「ゴミを集めている」と言ってはいけない

著者は大学卒業以来、キリンビールで長らくサラリーマン経験を積み上げてきた人物。人間関係のトラブルに巻き込まれて57歳で早期退職したのち、まったく違う分野で仕事をしたいという思いから東京ディズニーランドに準社員として入社した。そして65歳で定年するまで約8年間にわたり、カストーディアルキャストとして勤務したのである。

だが「東京ディズニーリゾートは以前から好きだった」とはいうものの、実際にそこで働くとなると"好き"なだけでは務まらないだろう。事実、「歩くコンシェルジェ」として清掃業務やゲストの案内にいそしむ日常は、戸惑いの連続だったようだ。読者からすれば、そのエピソードが興味深く、そして面白くもあるのだが。


 晴れてキャストデビューを果たして2日目のことだった。
 オンステージでスイーピング(筆者注:掃き掃除)をしていると、女子高校生とおぼしき2人組のゲストが私に近寄ってきた。
「何をしているんですか?」
「?」
 掃除をしていることは見たらわかるだろうと思ったが、質問の意図がわからないまま、とりあえずこう答えた。
「ゴミを集めているんですよ。ポップコーンなんかがあちこちに落ちていますからね」
 それを聞いた彼女たちは怪訝そうに顔を見合わせると、そのまま無言で立ち去っていった。(17ページより)

ディズニーファンには有名な話らしいのだが、この質問に対する最もオーソドックスな返答は「夢のカケラを集めています!」なのだという。先輩のベテランキャストからそれを知らされた著者は、翌日早速それを実践してみる。


今度は中学生と思われる3人組の女の子グループだった。ひとりがおずおずと近づいてくると、
「あの、すみません。今、何をしているんですか?」
「ええ、夢のカケラを集めています」
 彼女の表情がパッと明るくなったかと思うと、「ありがとうございます」と頭を下げて去っていった。私も彼女たちの思い出作りに協力できたかと思うと、嬉しくなった。(19ページより)

とはいえ、こうした"いい話"はむしろ少ない。著者はゴミの回収をしているとき「ゴミ屋さん!」と声をかけられたり、便器が詰まって個室内が水浸しになったレストルーム(トイレ)を慌ててモップがけしたりと、大きなことから小さなことまで、さまざまな問題に直面するのである。

そうした記述を目にすると、彼らがいるから「夢の国」としての体裁が保たれているのだと実感せざるを得ない。が、さらに印象的なのは、彼ら裏方たちの努力で成り立っている夢の国が、ゲストに与える価値の大きさだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

モルガンSが北海ブレント価格予想引き上げ、OPEC

ビジネス

スターバックス、中国事業経営権を博裕資本に売却へ 

ワールド

ペルー、メキシコとの国交断絶表明 元首相の亡命手続

ワールド

中国、日本など45カ国のビザ免除措置を来年末まで延
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中