最新記事

映画

波乱万丈なグッチ一族を描く『ハウス・オブ・グッチ』の、華麗で退屈な魅力

House of Goofy

2022年1月5日(水)20時05分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
『ハウス・オブ・グッチ』

PHOTO BY FABIO LOVINO. MGM.ーSLATE

<お家騒動、ロマンス、殺人事件と何でもありの映画『ハウス・オブ・グッチ』は楽しむが勝ちの怪作>

『ハウス・オブ・グッチ』という映画を、どう理解すればいいのだろう。

共同脚本のロベルト・ベンティベーニャが言うような、『ゴッドファーザー』の流れをくむクライムサーガ? 歌姫レディー・ガガを主演に迎え、イタリアの名匠ルキノ・ビスコンティ風の重厚さを加えたメロドラマ? それとも高級ブランドの創業家で繰り広げられただまし合いを暴くビジネス物だろうか。

実際は、とびきりゴージャスな舞台にその全てを盛り込んだ怪作だ。

サラ・ゲイ・フォーデンによる同名ノンフィクション(邦訳・ハヤカワ文庫)を下敷きにしたこの映画、私も『ロッキー・ホラー・ショー』の応援上映のようなお祭り騒ぎとして純粋に楽しみたかった。隣の席で大笑いしている友人が羨ましかった。

とはいえ評論家として言わせてもらうなら、デザイナーの座を狙うパオロ・グッチをハゲ頭のカツラをかぶって熱演したジャレッド・レトなどに笑いを誘われはしたが、約2時間40分近い上映時間があっという間に過ぎる傑作ではなかった。全6話ほどのテレビドラマとして制作したほうがよかったのだろう。とにかく話を詰め込みすぎていて、バランスが悪い。

商才のあるパトリツィア・レッジャーニ(ガガ)と弱気な御曹司マウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)の愛憎。『リア王』風の跡目争い。あるいはパオロと豪快な父アルド(アル・パチーノ)、マウリツィオと用心深い父ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)の対立と和解。

どれか1つだけでも面白い映画になったはずだが、それをリドリー・スコット監督が無理やり1本にまとめたために、不格好な仕上がりになった。だが不思議と人の心を捉える力はある。

展開は、観客が置いてきぼりにされるほど速い。登場人物の人生の最も興味深い部分をすっ飛ばし、ミームになりそうな見せ場から見せ場へと移り変わるのだ(84歳のスコットが「ミーム」を理解しているとは思えないが)。

トーンが定まらないのも魅力のひとつ

トーンが統一できていないことが問題なのだが、ファンにとってはそれも、この見事なまでに雑然とした映画の魅力だろう。犯罪実録物なのかラブロマンスなのか、はたまた企業ドラマなのか、ジャンルがちっとも定まらない。

また、ドライバーがここまでミスキャストに見える映画も珍しい。人の意見に振り回される小心者のマウリツィオは、めったなことでは動じそうにない大柄な彼のイメージと懸け離れている。

出演者が口にするイタリア語なまりの英語も、全体のトーンと同様に不安定だ。イタリア語のアクセントを操り、マフィアめいたファッション帝国の一員を演じて説得力があるのはガガとパチーノのみで、2人はどちらもニューヨーク育ちのイタリア系だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:軽飛行機で中国軍艦のデータ収集、台湾企業

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中