最新記事

BTSが変えた世界

熱烈なBTSファンの娘に、親として言いたいこと

CRAZY IN LOVE

2020年11月27日(金)15時35分
デイヴィッド・ピース(作家)

娘が熱中するBTS関連グッズの数々 COURTESY DAVID PEACE

<日本在住の作家デイヴィッド・ピースが、娘のBTS愛は「異次元の愛」だと気付かされた理由。娘よ、愛する才能を失うことなかれ──。本誌「BTSが変えた世界」特集より>

アンパンマン、スポンジ・ボブ、『オシャレ魔女♥ラブandベリー』、ジャクリーン・ウィルソンの児童文学、ワン・ダイレクションとメンバーのゼイン・マリク、ノルウェーのドラマ『スカム』、ティモシー・シャラメ、ファイブ・セカンズ・オブ・サマー(5SOS)......。
20201201issue_cover200.jpg
生まれてから20歳になるまでの私の娘の人生はさまざまな意味で、情熱の対象という章、それも大抵はごく短い数々の章から読み解ける。娘の情熱は激しく燃え、スポンジ・ボブのペンケースやゼイン・マリクのマグ、私のクレジットカード利用明細に記された5SOS日本公式ファンクラブの会費支払いなど、思い出のかけらを残して消えていった。

娘がBTS(防弾少年団)の話をし始めたときは、これまでと同じだろうと思っていた。だがたちまち、これは異次元の愛だと気付かされた。

まず、BTSに夢中になるのは、アルバム発表とツアーを中心とする大半のバンドの場合よりずっと包括的な体験らしい。

娘が足を踏み入れたのは、テレビ番組やオンライン番組、映画や書籍で構成される1つの世界だ。その全てをARMY(アーミー)と呼ばれる世界中の膨大な数のBTSファンが分かち合い、ソーシャルメディアで語り合っている。BTSについて質問すると、娘が「私」ではなく「私たち」と答えがちなことに、私はすぐに気付いた。

さらに、5SOSのファンだった頃、娘は彼らの出身地のシドニーに行きたいとか、カンガルーバーガーを食べたいとは言わなかった。ところが今や、ソウル旅行を計画し、韓国ドラマを観賞し、韓国語を学び、新大久保でサムギョプサルやチャミスルを味わっている。夢は韓国に留学して、韓国語を習得することだ。

もちろん53歳の父親にしてみれば、シニカルに嘲笑するのは簡単だ。いささか警戒し、不安になることさえも。だが、これは本当に奇妙なのか。

私自身の人生もいわば、情熱という章の積み重ねだった。それも大半は妄想交じりのものだ。私は本当にヨークシャーの街中で、鹿撃ち帽姿でパイプをくわえていたのか。ジョイ・ディビジョンやザ・スミスの音楽への情熱が理由で、マンチェスター大学へ進学したのは確かだ。アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンが好きなあまり、ベルリン移住を夢見たこともある。ジェームズ・エルロイのノワール(暗黒)小説への執着は私の最初の作品の源になった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中