最新記事

伝統文化

文楽の第一人者桐竹勘十郎、コロナ禍のなか手作りした人形に込めた思いとは?

2020年9月15日(火)18時11分

下積みの経験の大切さを、勘十郎さんは父から学んだ。3人の中央にいる足遣いは常に主遣いの体に触れている。だから主遣いを演じる父がどのように人形を遣うのかを身体で感じることができた。

晩年の父が遣った、名作『夏祭浪花鑑(なつまつり なにわかがみ)』の主人公、団七。長い手足に入れ墨をいれた大きな人形を、何度も病気を患い痩せ細った父が全身で操っていた。足遣いとして父の身体に触れていた勘十郎さんは、小柄な人形遣いでも、つま先から指さきまで全身を使えば人形が生きてくることを教えてもらった。

今、文楽の世界を背負い、若手を育てる立場にいる勘十郎さんは将来のことをより深く考えるようになった。若手の人形遣いが欲しい。足を遣う人が足りない。文楽は一生をかける覚悟で始めるものだと考えていたが、最近は違う思いも出てきた。

新しい入口、新しい遣い手

もし主遣いになるまでの長い道のりが若者の重荷になるのなら、別の形で文楽の世界に入ることはできないか。幕を開けるだけ、小道具を渡すだけの出番でもいい。いやならやめればいい。でもそこから文楽を好きになって、一生をかけてくれる人が出てくるかもしれない。小学校での授業も、「やっているうちに、好きになってくれる子もでてくるんちゃうか」と、思うようになっている。

国立文楽劇場には後継者を育成するための研修制度がある。太夫や三味線も含めた現役技芸員83名のうち約半数が、1972年に始まった同制度の出身者だ。現在研修生は2人いる。

今は日本人ばかり、それも男性だけの文楽の世界だが、いずれは外国人が入ってくる時代が来るかもしれないと勘十郎さんは言う。相撲や落語ではすでに外国人が活躍している。

そしていつの日か女性の人形遣いも出てくる日があるかもしれない。「第一号がさあ、いつになるのかというところですかね」と勘十郎さんはつぶやいた。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる
・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200922issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、クーパン情報流出で企業の罰則強化を要求

ワールド

豪政府支出、第3四半期経済成長に寄与 3日発表のG

ビジネス

消費者態度指数11月は4カ月連続の改善、物価高予想

ワールド

国連事務総長、通常予算6億ドル弱削減と職員18%減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 8
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 9
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 10
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中