最新記事

映画

外国語映画初のアカデミー作品賞受賞『パラサイト』 ポン・ジュノの栄光を支えた二人の翻訳者とは

2020年2月12日(水)12時30分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

豊富なボキャブラリーから瞬時にその場に最適な言葉で伝える

通訳や翻訳は、技術もさることながら、通訳者個人のセンスが生きる難しい仕事だ。何気ない一言をいかに訳すかによって相手の印象をがらりと変えてしまう。ただ意味を伝えればいいわけはなく、言葉のチョイスと言い回しがぴったり合ってなくてはならない。シャロン・チェさんはその点で、ボン・ジュノ監督と息の合った通訳ぶりが印象的だった。

特に昨年12月9日にアメリカNBCトークショー番組「The Tonight Show Starring Jimmy Fallon」に出演したポン・ジュノ監督の通訳で一気に彼女の名が広く知られるようになった。ゲスト出演したポン・ジュノ監督に司会者が「パラサイトは、どういう映画ですか?」と質問したのに対し、
「できればここでは言わないでおきたいです。ストーリーを知らずに見た方が面白いですから」
と返したポン監督。これをシャロン・チェさんはとっさに
「I'd like to say as little as possible here because the film is the best when you go into it cold.」
と訳した。「cold」は、冷たいという意味で使う印象が強いが、「準備や事前告知していない」という意味でも用いられる。この一瞬の判断にで直訳感がなくなり、より意思が通じやすくなった。
現在このようなシャロン・チェさんの通訳シーンを集めて再編集した映像が、YouTubeで100万回再生を突破する人気になっている。

若き名通訳者として今後も注目を集めそうなシャロン・チェさんだが、実は通訳の専門家ではない。ポン・ジュノ監督のインタビューによると、アメリカで映画を勉強する留学生であり、最近ソウルに戻り短編映画制作を準備中だという。ポン監督と一緒に世界中を飛び回って刺激を受けた彼女の作り出す短編をぜひ見てみたい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、オバマケア巡り保険会社批判 個人への直

ビジネス

英金融当局、リテール投資家の証券投資促進に向けた改

ビジネス

英インフレ率、近いうちに目標回帰へ=テイラー中銀金

ワールド

ウクライナ和平交渉、主権尊重と長期的安全保証が必要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中