最新記事

映画

泥沼の離婚劇『マリッジ・ストーリー』にスター俳優2人が命を吹き込む

Superb Performances in Divorce Drama

2019年12月18日(水)16時40分
デーナ・スティーブンズ

ニコールとチャーリーはお似合いの夫婦だと思われたが…… WILSON WEBB

<スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーの迫真の演技が光るバームバック監督の新作>

ノア・バームバック監督の最新作『マリッジ・ストーリー』の冒頭で、ニューヨークに住むニコール(スカーレット・ヨハンソン)とチャーリー(アダム・ドライバー)の夫婦は、相手の愛すべき点を次々と挙げる。

ニコールはプレゼント選びの天才だと、チャーリーは言う。スクリーンにはブルックリンのアパートで、チャーリーがもらったばかりのトランペットを思い切り吹いてみて、ニコールがうれしそうに笑う姿が映し出される。

8歳の息子ヘンリーと遊ぶとき、ニコールは地面にはいつくばって本気で遊ぶ。子煩悩だが、どこかマイペースなところがあるチャーリーにはできない遊び方だ。

ニコールは、チャーリーが一番好きな女優でもある。彼が舞台監督を務める現代版『エレクトラ』のリハーサルで、ニコールは主人公を演じつつ、チャーリーの演出に真剣に耳を傾け、その難しい注文に応えようとする。

2人は小さいながらも高い評価を得ている劇団の共同運営者だ。チャーリーは厳しい舞台監督である一方、キャストやスタッフにとっては面倒見のいい兄貴のような存在だ。

チャーリーは料理上手で、てきぱき家事をこなし、よき父親で、こざっぱりした着こなしができる。「一緒にいて恥ずかしくなる格好をすることはない」と、ニコールは愛情に満ちた様子で言う。「それって男性では珍しい」

やがて、この心温まる導入部は、現在の2人の気持ちとは正反対であることが明らかになる。2人は「離婚手続きを友好的にスタートさせるために」というカウンセラーの勧めで、相手と恋に落ちた理由を書き出していたのだ。

だが、ニコールはそのリストを読み上げることを拒否。夫とカウンセラーの説得に腹を立てて、部屋を出て行ってしまう。リストには夫婦が失ったもの──2人で築き上げ、ここから少しずつ壊していかなければならない家庭生活の姿が記されていた。

離婚産業に翻弄されて

バームバックは2005年の『イカとクジラ』以来、自伝的要素の強い作品を相次いで発表してきた。『イカとクジラ』は両親の離婚を子供(つまりバームバック)の視点から描いた作品だったが、『マリッジ・ストーリー』は彼と女優ジェニファー・ジェイソン・リーとの離婚を題材にしているようだ。

リーはバームバックの作品で重要な役を演じたり、原作を共同で執筆したりと、妻であると同時に、クリエーティブなパートナーでもあった。息子がいる点も、チャーリーとニコールの夫妻と同じだ。

リーが離婚のことや、その後のバームバックと女優グレタ・ガーウィグの関係について言及することはめったにない。ただ2016年に、バームバックとは息子の「共同親権者としてうまくやっている」とだけ語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国務長官と中国外相の会談始まる、対面で初の協議

ビジネス

米テスラ、インド市場に本格参入へ 15日に初のショ

ワールド

ミャンマー総選挙、ASEANの優先事項でない=マレ

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中